新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

自由貿易への弔鐘

ネットではThe Economist1月28日号が流れています。Leadersは多国籍企業の引き揚げ、混乱するベネズエラの政治経済、米中貿易交渉の見通し、最貧国の私学教育、ロシアの家族制度という、一見バラエティに富んだ構成ですが、トップ記事と3本目のいずれもトランプ新政権による保護主義的政策がアメリカひいては世界の経済に及ぼす負の影響への懸念に彩られています。

トップ記事の多国籍企業に見る退潮傾向については、まさにトランプ政権の政策が直接のきっかけとなるものですが、グローバルに生産を展開することで世界に安価な製品を供給してきたこれらの会社について、代替的にその機能を保管する担い手が必ずしも存在しない中で、これら企業の収益は漸減し、株価も低下し、やがて経済は鈍化するだろう、そして世界はかつてグローバル企業が反映した時代を懐かしく思うだろう、とのご託宣です。

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米中貿易交渉については、自国の国営企業をさまざまな手立てで厚遇し、競争的な環境を受け入れない中国に対してTPPで用いた諸政策を適用することで、自由貿易の促進が図られるであろうことを示唆しつつ、でもそれは考えにくいですよね、という結論になっています。

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さすがのThe Economistもお手上げ、という感のあるトランプ新政権ですが、同誌としても、ここまで矢継ぎ早にここまで保護主義的な政策実施に走るとは、という感じなのでしょうかね。

企業も、また

各メディアでは、新たに第45代アメリカ大統領に就任したトランプ氏に関する様々な報道が入り乱れる中、1月21日号のThe Economistもまた多くのページをそれに割かなくてはいけない状況のようです。

出張でだいぶ間が空いてしまいましたが、飛行機の中などで紙面を眺めていると、その余波は政治面に止まらず、さまざまな角度で変化への対応が議論されていることがわかります。企業の対応もその一つです。

日本についても、トヨタをはじめとする自動車産業が、どうかすると理不尽にも見えるロジックでやり玉に挙げられているようですが、The EconomistはSchumpeterのコラムで知的な分析に絡めて変化についての見方を報じています。

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そも、シュンペーターの節によると企業は6種類に分かれるのだそうですが、まず株主利益のみを追求する「企業原理主義者」、次に顧客に尽くそうとする「企業役夫」、先々を読んで動く「企業預言者」、潤沢な儲けを背景に株主利益に囚われずに済む「企業王」、社会的貢献を優先させる「企業社会主義者」そして株主価値に全く注意を払わない「企業背教者」(翻訳は私がテキトウにやりました)、だそうで、この順番に株主価値を重んじなくなるのだとか。

企業が何を重んじるか、は時代や経営環境によっても変化するわけで、昨今世界で目立つポピュリズムの勃興もまた、企業が対応すべき変化の一つ、というのがSchumpeterコラムニストのご意見のようであります。

出張の合間に

二つの海外出張の合間、74時間の日本滞在中にこのブログを書いています。

The Economist1月14日号のAsiaには、いわゆる従軍慰安婦問題を巡って深まる日本と韓国の対立についての記事があります。トランプ新政権の発足とともに米中関係が冷え込む流れにあり、その環境下で北朝鮮が核開発を最終段階へと進めているところ、釜山の日本領事館前に少女像が設置されたことをきっかけに日本政府が態度を硬化させたという流れは大局観を持ってみれば全くもってあるべからざるもの、ということができると思います。記事でThe Economistも指摘する通り、稲田朋美防衛大臣靖国参拝~やるのは良いとして何もこのタイミングでなくても~という蛇足めいたエラー、いやドチョンボが見事にすべてをもつれさせてしまったのではないかと見ています。

安倍首相の真珠湾訪問にも同行した彼女としては、政治的信条の発露のつもりでこのタイミングに靖国神社を参拝したのだろうと思いますが、その行為が国際政治に関する大局観のなさを見事に露呈することになるとは、つゆほどにも思わなかったのでしょうね。一部には将来の首相候補とする向きもあるようですが、このようなエラーをむざむざと犯すようでは、及第点は難しいように思います。

この絵姿は、裏から見れば北朝鮮および中国がどれほどこの問題で政治的に得をしているかが透けて見えます。日本からすれば南京事件と同程度にいかがわしい難癖と見える話が、韓国の足元をふらつかせ、日本からの助けが届かないように仕向けるためのトラップになっているようにも見えるのですが、さて。

アベノミクスへの祝福

新年あけましておめでとうございます。年頭、1月7日号のLeadersには、アベノミクスの先行きに期待するという、勇気づけられる論調の記事がでているのですが、日本の中にいるとなかなか気づかない視点の論調だったので、少し詳しく紹介したいと思います。

曰く、トランプ相場はアベノミクスにとって第二の「風」(追い風の意味。カミカゼを意識?)になるだろうと。そしてこれまでを見ると第一の矢、第二の矢は良いとして、それが国内の民間直接投資や賃金上昇、消費の拡大につながっていないことへの失望感が強いことを指摘しています。

人口減少やインフラの充実度を考えると、日本が新規投資の向け先になりにくいという性格はあるものの、「日本人」(労働力としての)を価値ある資産と考えるなら、まだやるべきことは多いはずだと。たとえば失業率が低いのに実質賃金がアベノミクス下で低下傾向にあることの不自然さについて。また電通事件に象徴されるように長時間労働が当然とされていることも。ただ東芝事件が白日の下に晒されるなど、これまで見過ごされてきた古い社会の問題点があぶり出されているのは逆説的だが改善のきざしであると。政府が取り組もうとしている配偶者控除の見直しを含む税制改革も有効だろうと。春闘の結果が期待に沿わないなら、最低賃金の大幅な見直しなど、政策的に対応できる手段を使えばよいと。デフレ懸念回避の流れが続くなかで、世界経済を下支えするアベノミクスを世界もまたサポートするだろうと。しかしそのために日本の企業経営者は勇気ある決断が求められている、という締めくくりです。

確かに、中国経済の減速や西半球全体を覆う政治の混乱などもあって、大きな流れで言うと日本のチャンスは拡大しているように見えます。ただ、コンサルタントの仕事を通じて私はよく言うのですが、「チャンスは、手放しで喜ぶべきものではない。チャンスをむざむざ見逃すようだとそれは即、批判の対象となる。」という別の顔があります。幸運の女神は後ろ髪を持たないとよく言われますが、2017年が日本にとってのチャンスであるとするならば、それを見逃さないだけの大胆さを持ちたいものだと思いますね。

新年が、皆様にとって良い年でありますように。

2016年を締めくくると

12月24日号のLeadersトップには、2016年が自由主義にとって厳しい年だったことを総括する記事が載っています。曰く、英国のEU離脱や、トランプ米国次期大統領の当選、あるいはハンガリーポーランドをはじめとするヨーロッパで見られたナショナリズムの台頭に加え、ロシアや中国が警戒の度を緩めないことも含め、自由貿易を是とする自由主義は全世界的に退潮傾向にあった、というのです。

なるほどたしかに、民主党政権時代にあれほど警戒されたTPPにしても、今や日本が推進する立場にある、なんていう絵姿は、自由主義の退潮という大枠の中でないと説明がつかない、と言えるかもしれません(慎重を期して?推進を決めた政策を、世界の潮流が変わったからという理由では変えられないのが今の日本)。

元来、自由貿易推進派のThe Economistとしては、踏んだり蹴ったりの年だったのかもしれませんが、哲学として自由貿易の価値に疑念を挟んだりしないのがこの本の偉いところ。技術革新と、新しい仕組みでよりよい世の中を築くため、来年こそは良い年に~もとい、自由主義経済の恩恵を見直す年に、したいしするべきではないか、というのが記事の主張です。

そういう流れで2017年を展望すると、日本は今のところ自由貿易の恩恵の方が大きそうなので、保護主義を唱える勢力が台頭するという流れにはなっていないようですが、トランプ新政権がむしろ加速させかねない保護主義的な流れとの対峙が課題になるかもしれない年、というふうに整理できるのではないでしょうか。

監視国家

12月17日号のLeadersトップとBriefingは、中国のインターネット監視システムと、それがもたらすであろう弊害についての突っ込んだ分析を伝えています。民主主義の国では当たり前のコミュニケーションの自由と情報乱用の規制が、中国ではそのいずれも存在せず、そのすべてが監視対象になっている、ということなのですが。

たしかに昨年訪れた上海では、Googleが使えずメールも遅く、大変不便な思いをさせられました。3千万人の超巨大都市は、爆発的に進められる超近代的なインフラ建設とは裏腹に、仕事のしにくい環境でした。

弾劾のあとには

The Economist12月17日号のLeadersにはシリア内戦、サイバー戦争と中国などの話題と並び、大統領弾劾が成立した韓国についての記事が出ています。北朝鮮の核開発が続き、アメリカ大統領選の直後に、ある意味で最悪のタイミングに力の空白を許すってどうなのよ、と言わんばかりのトーンです。

日本のメディアは今のところ、言いたいことも控えて事実関係のみを報道しているという感じだと思いますが、よりによってこのタイミングでなくても、と思った方は少なくないのではないかと。

本命候補がいない中で、担ぎ上げられる新大統領に指導力は期待できるのか?何より日本がさっさと10億円払った慰安婦問題はあっさりと蒸し返される可能性も出てきたわけで(蒸し返したいのなら、まず10億返したうえで話に来い、でしょうか)、全くもってやれやれ、という感じです。