新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

海の底の不気味

The Econnomist誌は2月11日号のScience and technologyで、イギリスの科学者チームによって行われたマリアナ海溝の汚染調査について報じています。日本でも新聞などで小さな記事が出ていたので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

www.economist.com

最深部は海抜-10,000メートルを超える深海部がどうなっているのか、実際に無人探査船を使って採取したサンプルからは、中国東北部を流れる遼河~瀋陽などの大都市や石油化学工業などで環境問題が発生している場所もあって、日本のODAが対策に使われたりしているようですが~の5から10倍の濃度でポリ塩化ビフェニール(PCB)やポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)が検出されたのだそうです。

これらの、いわゆる「残留性有機汚染物質」は、自然界には存在せず、工業的な利用のために人間が化学的に創り出した物質です。特にPCBの毒性は広く知られており、日本でも厳重な管理の下で相当のコストをかけて処理・廃棄事業が進められています。

太陽の光も届かず、熱水も湧かないとされる超深海で、どうしてそんな汚染物質が検出されたのか。地球科学の面ではロマンを感じる要素もなくはないと思いますが、むしろ不気味さが先に立つニュースですね。

俯瞰してみれば

The Economist電子版は、最新のニュースでアメリカ・トランプ大統領と中国共産党習近平主席が行った電話会談を取り上げ、「一つの中国」政策をアメリカが認めたことについて報じています。曰く、「一つの中国政策を承認するために取引を求める」と言っていたトランプ大統領が、取引きなしにこれを認めたとすれば中国の思い通りに進んだことになるが、はたして本当にそうなのか、というトーンです。

記事の中で、訪米した安倍首相が受けたレッドカーペットのもてなしは、対中国のバランスを取ったものであり、そこへ北朝鮮がアジアの問題は中国だけではないと誇示するようにミサイルを打った、という記述がありますが、過去1週間に起こったことを俯瞰してみると、実はそんなような絵姿だったということになるのではないでしょうか。

「日米」という枠組みでしかニュースを伝えないメディアや、安倍首相が戻ってきた後その訪米成果をあれこれほじくる野党もそうですが、社会の関心が果たしてそんなところにあるのか?という視点でもう少しものを考えられないものかなと思います。

フェアウェイ友達

昨日も書きました通り、現時点までのところThe Economist電子版ではほぼ全く無視された感の強い安倍首相訪米ですが、2月11日号のAsiaには、チクリと批判するトーンながらそれを伝える記事が出ています。

曰く、安倍首相は昨年11月、世界がその勝利にハッと驚いている最中に飛行機に飛び乗ってトランプ候補(当時)に会いに行った、今回はそのとき持参した金メッキのゴルフクラブよりさらに大きな、新幹線建設を含む大規模雇用創出プランを持参して行く、そしてその資金はGPIF年金積立運用基金から支出されるかもしれない、ということも書かれています。

日本政府のアドバイザーをしている、というKollという名の人のコメントとして、「最大のリスクはトランプを信用しなくてはいけなくなることだ。」と。

昨日から今日にかけて、お約束のように北朝鮮はミサイルを打ってきましたが、当面優先される課題は、安全保障よりも経済なのだということを改めて物語る動きのように私には見えます。

 

世界はそれをどう伝えたか

昨日から今日にかけて、日本のテレビは安倍首相がトランプ大統領との親交を深めた話題を頻繁に取り上げています。週末にかかるためなのかもしれませんが、The Economist電子版にはそのニュースがひとかけらもありません。さて、と思って他を見てみたのですが、Financial timesは中国・習主席とトランプ大統領との電話会談のあと、日本の安倍首相と会って支援を約束した、みたいな書き方ですし、CNNはアメリカ版のトップページではだいぶ下の方に19秒握手をしたことなどが報じられているようです(アジア版のトップページには、日本を支援すると約束したことがトップに出ています)。

こういうふうに比べてみると、何が誰にとってのトップニュースで、何がそうでないのかが薄っすらと見えてくる気がします。立ち位置によって、ニュースもその伝えられ方も、全く違ってくるということですね。

ロシア側からそれを見たなら

ネットでは2月11日号が流れているThe Economistは、昨夜一晩かけて羽田からワシントンへ飛んだ某国首相の動静については一顧だにせず、通常よりも多い紙面を使って米ロ関係、もっというとトランプ米大統領の対ロシア戦略に対する警告を発しています(それにしても、こうまで無視されるとは日本政府も思っていなかったのではないかと。世界の政治動向短信であるPolitics this weekの欄でも、ナイジェリアの大統領が休暇を延長したことは伝えても、日米首脳会談には一言も触れていません)。

アメリカがロシアに期待すること、すなわちISに代表されるイスラム教過激派対策について、ロシアの最大の関心はアサド政権の存続であり、ISを含む反政府勢力の一掃は関心事ではあるものの、それがイスラム過激派撲滅とイコールではないこと、アメリカが用意できる空爆を中心とした対策は、地上軍を用意できないロシアのそれとは補完的に働かないことを挙げたうえで、対中国戦略でも経済面・安全保障面ですでに依存関係にあるロシアが中国から離れるという絵姿は考えづらいこと、ウクライナ問題において欧州の支持を得られるような解決策をロシアと合意できるとは全く思えないことなど、ロシアとの協力が極めて困難なものであることを伝えています。

更に興味深かったのは政治思想史的な分析で、そもそもロシア革命そのものがアメリカ独立の延長線上にあり、思想的に当時のロシア人ははそれを凌駕するものにしたかったのだという解釈です(私が良く知らないだけで、ロシア革命について分かっている方には当たり前のことなのかもしれません)。その衣鉢を継いだものの見方をするならば、帝政打倒から今に至る近代政治の中で、トランプ政権のふるまいは専制的な体制を敷いたロシア側に「ついにアメリカの方が近寄ってきた」と見えなくもないのだろうと思われます。そう考えると欧州の極右勢力の台頭もまた、ロシア的には自分たちの思想的な優位性をくすぐる変化に見えるのではないでしょうか。なるほど、某国首相がゴルフをするかどうかより、かなり興味深い話かもしれません。

壁が出来たなら

The Economist2月4日号のBriefingには、アメリカのトランプ大統領との関係について、そのスタンスを決めかねる各国首脳の悩みを捉えた記事が出ています。イギリスではメイ首相がトランプ大統領との交渉に臨むことへの異論もあるのだとか。わが日本の安倍首相は大統領専用機に乗ってフロリダでゴルフだそうですが、見る人が見れば旗幟鮮明な対応を取っていることの意味を、しっかりと理解していることを期待したいと思います。

ときに、メキシコ国境の壁ですが、障壁が大きくなれば密輸業者が得をする、壁ができればトンネルが掘られる、というのがThe Economistの見方です。それでも壁は立つのか、そして「だから言ったこっちゃない」という予定稿がメディアを賑わすだけの話になるのか、まだ2週間ちょっとしか経っていないのですが、やれやれ、という感じですかね。

セカイノサケメ

The Economist2月4日号は、ホワイトハウスの反逆者、というタイトルでトランプ米大統領が矢継ぎ早に繰り出す新しい政策についてトップで論評していますが、特に外交面ではイスラム系7か国からの入国差し止めと、難民受け入れの一時停止についてなかなか洞察の利いた深堀りをしてくれています。曰く、大統領上級顧問のバノン氏が震源地なのだとか。彼はメディアによってスターウォーズダース・ベイダーにも擬せられているところ、イスラム過激派と戦うには、ロシアをパートナーに選ぶしかない、という思い切った選択を提案したのだと。思い切った考え方だと思います。キリスト教ユダヤ教連合対イスラム過激派という絵姿は、世界を分断しようとする試みと批判されることも覚悟の政策に違いありません。そういう流れの中で見ると、今のところ日本については傍流にあるものの、結局はこの流れに付いて行くしかないヨーロッパと同じように、アメリカ側につくことを期待されているということだと思います。そうすると見えてくる裂け目の向こうにいるのは、もしかしてイスラム過激派と中国の連合だったりするのか?それがトランプ政権の仮想敵国群(あるいは実際の)なのか?

バノンが描く世界の流れでは、ヨーロッパにとってはロシアとの妥協を強いられ、親米アラブ勢力はイスラエルの風下に置かれ、冷え切った関係のまま同盟に残らざるを得ない日本と韓国もそうですが、アメリカ第一主義なるもののもたらす居心地の悪さが際立つ絵姿になりそうです。

でもそれが、アメリカ市民の安全につながる政策だということで、選挙を通じてアメリカ人が選んだものの考え方だ、ということなわけですね、現時点では。核戦争の脅威が逓減したと思ったら際限なくはびこり出したテロや小規模紛争に対応するため、ブッシュ政権以降のアメリカが負担してきた軍事的な対応を、壁や裂け目を作り出すことで政治的な対応に置き換えようとしている(言ってみれば負担軽減策)、私の目にはバノンの政策がそんなふうに映るのですが。