新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

とある先進技術の終わりかもしれない出来事

4月1日号のThe Economist誌はBusinessで、連邦破産法11条の適用が決まった米・ウェスチングハウス社の核エネルギー技術と原子力発電の将来について、現状を詳しく伝えながら「再開には長い時間がかかるかもしれない」と、悲観的な見方を伝えています。

それによると、親会社だった東芝のスキャンダルもさることながら、原子力に関する新たな規制の強化や海外プロジェクトの停滞などでウェスチングハウス社の持つ技術がビジネス的に立ち行かなくなったこと、その費用負担を巡る東芝の対応は日米外交関係に影響を及ぼす可能性もあることなどが触れられています。

地球温暖化対策などを含めて、あると考えられていたニーズも再生可能エネルギーの普及や技術革新などにより、原子力発電が再び脚光を浴びる可能性は日々小さくなってゆくということなのかと思います。今回の事件は、ことによるとかつては花形だった先進技術が社会的な要請によって使われなくなるという変化を象徴するものなのかもしれません。

 

 

相対的に

4月1日号のThe Economistは、ふつうヨーロッパの内輪話についての記事が載るCharlemagneに日本との通商交渉に関するちょっと冷めた見方の記事を載せています。

そういえば、さきごろ(3月19日から21日)安倍首相がEU諸国(ドイツ、フランス、ベルギー、イタリア)を歴訪したのですが、多くのメディアが取り上げたにもかかわらず、日本でもこのニュースは後を引くことなく「いつもの話」として驚きを伴わずに受け入れられていると思います。

EUも日本もトランプ政権から包括的な自由貿易交渉を棚上げにされたという点では似たような立場に置かれているわけですが、今回Charlemagneが注目したのはアメリカを含む規模の大きな交渉が頓挫したことにより、2013年から続けられている日EU経済連携協定(EPA)の交渉が図らずもクローズアップされることになった、という展開ですね。

Chalemagneは、おそらくヨーロッパ人の常なのではないかと思うのですが、あまり楽観的な見方はいたしませんで、アメリカとの交渉頓挫を受けて日本との交渉妥結を急ぐ中で日本側へ譲歩すると、日本市場への参入を期待していた欧州の畜産農民にとっては悪いニュースになるだろう、という予想を立てています。

また、メルケル首相が冷遇されたのに比べると安倍首相はトランプ大統領から破格の厚遇を受けていることなどをあげ、日EUの鉱床なのに安全保障問題とも絡んでアメリカの意向が忖度される事への警戒感も懸念材料に挙げています。

本来、自由貿易の旗手を自任するThe Economistですから、もう少し応援してくれても良さそうなものなのですが、TPPなど大物が行き詰まってしまった中で相対的に浮かび上がったという経緯を考えると、扱いとしてはそんなもの、なのかもしれませんね日EUの協定は(個人的には、チーズとワインがもう少し手に入りやすくなってほしいものだと思っています)。

メッキが剝げるとき

3月25日号のThe EconomistはLeadersで多国間外交に消極的な米トランプ政権の姿勢に対する危機感を伝えていますが、同時にThe Economist電子版の記事では先ごろ報じられた健康保険制度改革(いわゆるオバマケアに対する対案)の頓挫について、先行きを不安視する論評が出ています。

多国間外交におけるアメリカの「出し渋り」は今に始まったことではなく、そもそもレーガン政権の時代から何かというと「支払わないアメリカ」というパターンは繰り返されてきていました。ブッシュ政権は、少なくない多国間機関からアメリカを脱退させましたし、オバマ時代を通じても、約束した拠出金を最後まで払わない、というスタンスはあまり変わっていなかったのではないかと思います。

温暖化対策や多国間の自由貿易協定に懐疑的なトランプ氏の姿勢は、この動きを強めると言うことでしょう。パリ協定の停滞が更なる温暖化ガスの排出につながることは分かり切った話だと思うのですが、米国経済を優先する自身の政策とは相容れないという判断に揺らぎはないようです。

この点について、The Economistが懸念する「対抗勢力としての中国の台頭」について、確かに中国は、たとえばパリ協定をアメリカ無しでリードして、その実現を果たすだけのポテンシャルがあるのは事実だろうと思います。でも果たして、中国にそれができるのか?他国が受入れ、中国のホストぶりを認めるような提案、地球全体のことをケアするような政策が果たして出てくるのか?

私はここが分水嶺だと思っています。政策の基礎となる哲学の部分で、普遍性があり他国にとって受容しやすい要素をあまり多く持っていない中国(儒教+東洋+共産主義)からの提案が、南北アメリカ、欧州、西アジアそしてアフリカに受け入れられるものになるのか?おそらくインフラ的な部分(政治体制や経済の枠組み)でリーダーシップを取ることは難しいと思うのですが、付加的な要素(気候変動対策や地域の貿易自由化など)ではまだ活躍の余地はあるのだろうと。だとした場合、中国政府にとっては「アメリカ抜きの世界貢献」を訴求するための恰好の機会として気候変動対策に取り組むモチベーションが生まれるのではないかと思われるのですが。

そのような状況にあって、健康保険問題で躓いたトランプ政権が次に直面するのは税制問題であるとThe Economistは説きます。ここで2連敗するようだと、ただでさえ低い米国内での支持率や期待値もぐっと下がる流れになるのではないでしょうか。そこで中国に(たとえば温暖化対策について)出し抜かれるようだと、世界がアメリカを見る目は明らかに変わってゆくのではないかと思います。

運が良ければ

長い出張でちょっとご無沙汰してしまいましたけど。

さて、3月25日号のThe EconomistAsiaで東京都の小池知事を取り上げています。

記事は自民党の「内なる敵」というタイトルで、東京都を舞台に展開される自民党都連との対決は、将来のリーダーシップキャンペーンではないかという見方を示しています。

片や安倍後継が「見えない」とされる自民党本体を考えたとき、そうみる向きは日本でも少なくないのだろうと思います。ただ、運が良ければとThe Economistが最後に付け加えたように、都政が抱える数々の問題は出口が見えにくいものばかりです。たとえば豊洲問題は、建物ができてしまい日々おカネがかかっている分だけ先送りにはしづらい話であり、どのような決断をするにせよ強い批判を免れるわけには行かない状況にあると思います。その影響は間接的ながら、日々の都民の暮らしに及んでいることを実感する必要があるのだろうと思います。

記事が「運が良ければ(if her luck holds=彼女の幸運が続くなら)、」とするその運は、案外小池さん個人の運ではなくて、彼女とともにいる都民あるいは国民の運のことを言っているのかもしれません。

フランスの将来

The Economist3月4日号のLeadersトップは、日本でも伝えられているフランス大統領選挙の帰趨についての論評記事となっています。

オランド大統領やサルコジ前大統領など、既存の政治家たちがいかに支持を失っていったか、というくだりを説明している部分を除けば、記事の中身そのものは日本で伝えられているものと大差ないのですが、端々に自由貿易の庇護を志向するThe Economistらしき言葉遣いが見られます。曰く、極右政党といわれるルペン候補のNational Frontが勝てば、フランスは「貧しく、内向きに、そして厄介になるだろう」とのこと。

確かに、移民が増え、普通の人のミニスカートを誹謗するようなテロリストも跋扈するようになることを、フランスの大衆は望んではいないと思うのですが、同時に経済が停滞し、若者の失業が増えてゆくことを歓迎するかと言われれば、最後は経済が優先されるのではないかという気がします。

でもだからと言って、対抗馬と目されているマクロン候補の勝利が確定しているのかといえばそうではないわけで、どちらに転んでもフランスにとって難しい時代がやってくるのは間違いなさそうです。

それに比べると、日本の場合は今のところ極右が台頭する土壌になっていない分だけまだ恵まれている、というふうに言えると思うのですが(だからこそ、経済の部分で何とかすることが求められているわけで)。ナチスは選挙で選ばれた、という歴史を忘れないようにしたいと思います。

海底資源開発について

The Economist2月25日号のScience and technlogyには、注目される海底資源開発について興味深い記事が出ています。海底で確認されているニッケルや銅、コバルトなどの資源を採掘する事業に、カナダやアメリカの企業が参入しつつあるそうなのですが、その中に三菱重工の名前も出ていて、いよいよ本格的に海底を対象とした鉱山開発の時代が訪れることを予感させます。写真で紹介されている採掘マシンはSF小説に出てくる機械をほうふつとさせますが、同時に実機の持つ迫力を十分に感じさせるものです。

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記事によると、海底火山を取り巻く鉱床のまわりには微生物が暮らす環境があり、採掘によってこれらが影響を受けるのではないかという懸念もあるようですが、海底火山の爆発によっても一時的に阻害されるこれらの環境が復元されるまでさほどの時間を要していないことを考えると、影響は軽微なのかもしれない、というのが記事の見方なのですが、はたして。

もう一つのアメリカ国境で起きていること

おそらくはトランプ大統領当選以降ではないかと思うのですが、最近The Economistの記事ラインナップを見るにつけ、欧米ローカルの話が多くなったなあと言う気がしています。それだけ目線が足元に落ちている、ということなのかもしれませんが。

前置きが長くなりました。今日注目したのは、アメリカとカナダの国境で起きているという、別の不法移民問題の話です。不法移民と言えばメキシコからアメリカへ、に限られた話かと思っていたのですが、このところアメリカからカナダを目指す動きが出てきていて、特に7か国の出身者に入国制限を課す大統領令が出たころから、数はまだ少ないもののアメリカを脱出してカナダへ向かう例が増えているのだそうで。

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確かに、カナダの首相はくだんの大統領令に対して「カナダは移民を歓迎する」みたいなメッセージを発して有名になりましたが、世論調査によるとカナダの国民は移民によって経済が良くなっているという意見を持つ半面で、難民は信用できない、という意見も5割に達しているという複雑な面も持ち合わせているようです(「移民」と「難民」の微妙な違いにご注意ください)。

目線が足元に落ちると、大局観を見失うリスクが高まるのは自明です。メディアとして堅持すべきそのあたりの責任については、私なんかがあれこれ言わずともThe Economistなら当然分かっていてくれるもの、と信じますけど。