新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

支持者のみを支援する

The Economist電子版のトップは、さきごろアメリカ・バージニア州で発生した白人至上主義者と反対勢力の衝突事件を巡るトランプ政権の反応について、「結局自分の支持者を支援するという以外に信条はない」と断じています。

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これまでの大統領は、国難に際して団結を訴えることでそれを乗り切ろうとしてきたところ、トランプ大統領がしたことは自分の支持者のみを大事にするという姿勢であった、とするThe Economistの見方は、アメリカの内政を巡る危険度が増したことを示しているような気がするのですが、どうして株価は堅調だったりします。内政に足を取られる≒北朝鮮問題は進まない≒北朝鮮へのアメリカの先制攻撃はない≒株価は安定、という計算式でしょうか?

想定される悲劇

ネットで流れている8月5日号のThe Economistは、LeadersとBriefingの2本、計3本の記事を使って北朝鮮による核開発問題について報じています。

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記事が伝えるところによると、北朝鮮によるミサイル開発は想定以上に進んでいるものの、ICBMの実戦配備までにはまだいくつかの「実験」を必要とする段階だろうとのこと。とくに弾頭の大気圏再突入については、先日北海道の気象カメラがとらえた映像を分析するに「地上へ向けて加速し、地球の表面(海面?)に当たると小さな丸い物体と光る気体を放出し、暗くなって見えなくなった」のだそうです。

これがミサイル技術的に何を意味するのかは、記事を読んだだけではよく分かりませんが、安定的に爆弾を地表まで打ち込むにはまだ力不足である、ということなのでしょうか。The Economistの論調も、まだ完成した技術とはいえない、というトーンです。

もしアメリカと北朝鮮の間で武力衝突があるとすると、日本そして沖縄の米軍基地(およびそれ以外も?)、さらに韓国とくにソウルには大きな被害は免れないことと思います。記事の伝えるところでは、ミサイル発射段階での探知と迎撃はかなり難しいようで、韓国が急いで配備しようとしているTHAADよりも、日本海にいる潜水艦から発射される巡航ミサイルを使った迎撃のほうが効果的なのではないかとのこと。

また仮に今、そういう紛争があると軍人・民間人含めて10万人のオーダーで犠牲者が出るだろうとの予測もなされているようです。それでもなお、仮に直接の被害がアメリカ本土に及ばなかったとすれば、トランプ大統領は「アメリカは安全だった!」とツイッターに書きこむのでしょうか。

 

 

中国とロシア

あからさまな書き方をするメディアは、日本ではあまりお目にかかりませんが、海外ではそれがむしろ普通だったりします。The Economist7月29日号のChinaは、中国とロシアの関係そしてロシアが置かれた国際的な立場について、おそらく日本では絶対にお目にかからないあからさまな書き方で、その分析を伝えています。

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曰く、習近平プーチンは首脳同士として最も頻繁に会う間柄である、習近平は2013年にインドネシアで開かれた国際会議のときもプーチンの私的な誕生日パーティに招かれた、また両国が催した戦勝70年記念式典に相互に出席するなどその関係は深い、のだそうです。

その他にも;

①ロシアが日々衰えていることを、西側が認識していると同様に中国も冷静に見ている。ただアメリカがそれ(ロシアの自己主張)を無視してかかるのに対し、中国は衰えた核保有国が自分の頭痛のタネにならないように注意深くロシアとつきあっている。

②中国は、ロシアが冷戦後の体制へ挑戦しようとする(ウクライナ問題など)ことを歓迎してはいない(クリミア半島併合も未承認)。経済のグローバル化で最も裨益しているのは中国だから。

③中国はロシアから石油ガスと兵器を買っている。経済面の相互依存度は圧倒的にロシアの中国依存度が高い。政治と安全保障分野でのみ、中国はロシアの価値を認めている。

中央アジアは政治的にロシアの縄張りだったところ、「一帯一路」政策により中国の影響度が高まりつつある。

⑤極東ではかつてロシア人が中国観光に行きおカネを使っていたが、今や中国人がロシアでカネを使う時代に。

「衰退するロシア」というモデルについて無神経な西側(あるいは『それみたことか』、というふうに思っているのかもしれません)、用心深い中国(アメリカが対ロシアで抱えているような面倒を抱え込むのは御免)という違いは、かなりの部分で地政学的な差異によるものではないかと思われます。西側(ヨーロッパ)も中国も、ロシアからの石油ガスに依存する度合いが高いわけで、ロシアが今の地位にいられるのも石油ガスがあるから、という絵姿が浮かび上がります。

誰が誰に対して何を考えているか、みたいな視点での読み解きは、なかなか日本のメディアではお目にかかりません。今日の記事はぜひ英語で読まれることをお勧めします。

アメリカ社会と銀行

The Economist7月29日号のFinance and economicsには、最近アメリカの銀行が田舎の支店をどんどん閉鎖しているという傾向についての記事が載っています。

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記事の報じるところでは、都市部から離れた小規模な町や村(?)で、銀行の支店が閉鎖される例が相次いでいるとのこと。かつては全米で10万件ほどあった銀行の支店が、今や9万件まで減ってきているのだそうです。かの国で支払いの中心となる小切手決済を引き受けたり、地場産業の運転資金をサポートする役目を担う銀行がなくなる、というのは地域経済にとって結構重たいインパクトを持つ現象だろうと思われます。景気に直結する通貨の流通は、中央銀行が通貨供給を増やした段階ではなく、銀行が顧客企業の口座に資金を貸し付けたところが実際のスタートになるわけで、そう考えると銀行の支店閉鎖は、地場産業にとって不便をかこつに止まらず、国内経済の持続可能性を低めることに他ならないのだろうと思われます。

これはかの国の経済インフラが傷んできていることの証拠であろうと思って見ています。そして日本も以て他山の石とすべき話だろうと思います。かつてメガバンクが合併で支店合理化を行ったときには、都市部中心に有人店舗がATMに置き換わる等の変化がありましたが、人口減少の続く中、AI導入の影響もあって金融機関の大幅な人員削減が噂されているがその理由です。

そして合理化が真っ先に向かう先は、人口が減って地場産業が衰退する地方都市だろうと思われます。そして合理化が減らすのは人だけではありません。未来に向けた夢やモチベーション、街の勢いと言ったものを根こそぎ減らしてゆくのです。むろん、地元経済界は必死になってその流れに抗おうとします。そして例外的なケースではそれがうまく行く場合もあるかもしれません。しかしながら長期で見れば、全体が沈んでゆく流れは変わらないだろうと思います。

そのような傾向の中でどうやって経済インフラとしての金融機関を下支えするのか?インターネットは一つの答えなのかもしれません。AIもそうです。でもこれらは所詮「乗り物」あるいは「器」の話でしかなく、血の通った金融サービスを担保しようと思ったら、今の段階では結局人が介在しないことにはうまく行かないように思います。それをどうやってAIやネットのサービスに置き換えてゆくのか。そのあたりの移行経過を上手くコントロールできるかどうかが勝負の分かれ目になってくるのではないでしょうか。

生き方と生き様の、多様化

ネットでは7月29日号が流れているThe Economistは、LeadersとInternationalでそれぞれ子供を持つ生き方とそうでない生き方をする人たちについての記事を載せています。

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日本では、少子高齢化あるいは人口減少問題などというふうに、なんだか国家の問題のように一言で括られることが多いと思いますが、The Economistの見方は(そして多分、少なくない西欧のメディアも)、「終生子供を持たない人の率」みたいな指標を通じ、むしろ社会の問題として捉えようとしています。

むろん、たとえば日本の年金制度のように、子供の数が少なくなると厳しい制度を構築してしまうと、それは国家の問題という部分が強く出てくるわけですが、The Economistの読み解きによると、子供を持つ人も持たない人もいて、アイルランドなどがそうであったように、子供を持つ人がたくさん産めば人口問題への影響は大きくない、という性格の話だろうということなのです。

そういう目で見ると、先進国の首脳には子供のない人が多く(偶然でしょうか)、日独仏英の首脳はみなそうだったりします。ただ統計的に見ると、たとえば30歳過ぎて子供のない女性の比率が高まっていることは事実のようです。

興味深かったのは、ドイツなどでは男性の場合大卒よりも高卒以下の人に「生涯子供を持たない人」の率が高いという話でして、これはパートナーとして一定以上の資格を持った男性の方が選ばれやすいから、という仮説がその説明として挙げられています。

考えてみれば動物も、発情期にはオス同士が力比べをし、勝った方のオスがメスを独占したりするという生態だったりするわけで、だとするとみな平等に結婚し、みな平等に少しの子供を持つ、といったビジョンの方がどこかおかしいという話であることが分かると思います。

結婚する人はする、しない人はしない、子供を持つ人は持つ、たくさん欲しい人はたくさん持つといった多様化を通じて、あからさまな損得が発生しない社会を実現できれば、最終的には日本の少子高齢化問題も緩和される方向に向くのではないかなと、そんなふうに思うのですが。

温暖化が進むと

The Economist電子版は、進む地球温暖化によって影響を受けると考えられる航空業界に関する興味深い記事を載せています。日本のメディアではまだ注目されていない話題だと思います。

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曰く、気温が上がりすぎると空気の密度が変化することによって十分な揚力が得られなくなり、ドバイやニューヨークなどの空港では最も気温があがる時間帯には定格より4%ほど積載重量を落とさないと離陸できなくなるのではないか、との観測があるのだそうです。

暑い暑いと思っている今年ですが、暑さが心配のタネになるのは日本だけではないようです。

劉暁波への弔辞

ネットで流れているThe Economist7月15日号の表紙は、昨日がんで亡くなった中国の民主化運動の闘士でノーベル平和賞を受賞した劉暁波(Liu Xiaobo)氏の、まだ元気なころの横顔です。The EconomistはLeadersのトップ記事と、ChinaそしてObituaryの3本の記事を割いて、彼の死を悼んでいます。

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中国の民主化と人権尊重について西側諸国はもっと声を上げるべきであったと、彼が遺した民主化の青写真である「チャーター08」という文章には、一党支配の終焉と真の自由を希求することが明示されていたと、The Economistは訴えます。

(彼のノーベル賞受賞は、中共政府をしてノルウェーとの断交に踏み切らせ、ようやく昨年国交が再開されたのだそうです。)

事実として彼の死を伝えたメディアは日本にも数多くあったと思いますが、それが意味するところを伝えようとしたメディアは少なかったのではないかと思います。ネットなどでは何人かの保守論客が自虐のようにその控えめな報道ぶりを非難していたようですが、結局はその程度でした。

せめて、彼のノーベル平和賞受賞が霞んでしまわないように、その受賞記念を毎年思い出すような取り組みがなされて行くように、中国で民主化と人権尊重が進んでゆくようにと思わずにはいられません。