新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

THAADのせいで?

10月21日号のThe EconomistはBusinessで、中国から撤退することを表明した韓国のロッテマートに絡めて、THAADに関係したと思われるその他の事情も広く紹介しています。

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まず、どうしてロッテマートなのかというと、グループが保有するゴルフ場をTHAAD設置場所として提供したから、ということだそうです。結果、中国に99店舗あったロッテマートのうち77店舗が消防法違反などの容疑で閉店させられ、営業不振で13店舗が閉店したのだそうです。結局ロッテは撤退を表明したわけですが、他にも①ソウルへの中国からの観光客が来なくなった、②化粧品が売れなくなった、③現代自動車の売上が落ちているなどの現象が確認されているのだそうです。あと、ロッテマートの中国での経営自体がそもそも赤字傾向だったという分析もあるようです。そうだとすると、何が何に作用して起きた話なのか、読み解きはやや複雑になってくるのかなと。

中国と韓国は、為替を巡る通貨スワップ協定を延長させており、それが関係改善へのシグナルかもしれない、という観測もあるようで。ものごと、単純な見方ばかりではないということでしょうか。

その他

台風と同時に衆院選を終えた日本ですが、The Economist電子版も最新記事でその結果を伝えています。中身は安倍政権の今後について、そして希望の党がどのように登場し、どのようにコケたかを簡単に伝えたものにすぎないのですが、なるほど、と思わされたのは議席配分をしめしたグラフで、自民党公明党希望の党立憲君主党と来てその次が無所属、共産党をはじめとする既存野党は「その他」に括られているというものです。

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私はかねてから、たとえば社民党など議員がほとんどいないにもかかわらず、選挙戦を伝えるニュースなどで必ず党首の発言が伝えられることに違和感を感じていました。いわゆる「諸派」というコトバがありますが、そんな括りで良いのでは?と思っていたので、このグラフを見て「そうだね」と感じたのでした。

その他が良い悪いということではなく、国政なんだから大局を考えようよということですかね、その意図は。

AIの進化の話

10月21日号のThe Economistは、Science and technologyで、新しい人工知能囲碁の世界チャンピオンを破った人工知能を寄せ付けずに完勝したこと、そしてなによりその人工知能が過去の棋譜を全く参照せず、いわば独学で強くなったことを細かく伝えています。

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このニュースは日本でも興味深い話題として伝えられたと思うのですが、新しい人工知能である「アルファ碁ゼロ」が、ルールだけ教えられた後のトレーニングを3時間ほど積んだところで「石を取りたがる」という、囲碁の初心者が示す特徴を示し、丸一日たったころには熟練のプロのレベルに達し、二日後には2016年に韓国のチャンピオンに勝ったバージョンよりも強くなったのだとか。

何でも囲碁やチェスなどの強さを表す数値でElo ratingというのがあるそうなのですが、この数値で200点違うと、勝率はわずか25%になってしまうところ、韓国のチャンピオンが3526点、中国のチャンピオンが3661点、で「アルファ碁ゼロ」は40日ほどのトレーニングの後、なんと5000点を超えるレベルに達したのだとか。

日本では、井山裕太さんの7冠復帰が話題になりましたが、ネットで調べてみると彼のランキングは世界で30位くらいだそうです。そのうち、師匠はAI、と言う棋士が登場するようになるかもしれませんね。

動きたくても

ネットでは10月21日号が流れているThe Economistですが、Leadersのトップで最近の国際政治~特にグローバリズムへの逆風~について興味深い分析をしてくれています。

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曰く、ドイツでもオーストリアでも(そして多分、この週末に選挙がある日本でも)グローバリズムについて行けなかった人たち、あるいはついて行きたくても諸般の事情でそうできなかった人たちの声が政治の前面に出てきたことの背景には、「場所」の問題があるのだろう、との読み解きです。

「場所」は、たとえば経済が比較的良い地域があったとして、そこへ移りたくても移れない人たちにとっての制約条件になります。自由に移動し、自由に稼ぐ成功者たちは行く先々で稼いで税金を払うので、それを託された政治はその税金を何かに使い、ツケを作るのですが、やがて稼ぎ手がどこかほかのところへ移ってしまうと、政治は年金のツケを含めてその後始末に追われることになります。「稼ぎ手」を製造業(特定の企業ではありません)とし、「どこかほかのところ」をアジア諸国に比定すると、「政治」はまさに今、日本が置かれた状況に他ならない、ようにも読み解けます。

そうするとアメリカでトランプ大統領が出てきた背景と同じく、自由貿易協定を見直して分配への配慮を求める意見が強まる流れが出てくるということかと。立憲民主党が勢いを持つ理由は、いくら経済を良くしても給料は上がらず、「ツケ」の支払いは結局自分に回ってくる(消費税アップ)ことへの苛立ちに起因するのではないか、と読み解けるのではないかと思います。

The Economistの示唆する解決策は、「経済の良い地域へ人の移動を促進すること」だそうで、それに従うと例えば好景気に沸くアジアへ能力ある人を振り向ければ、その人も経済も幸福になるというお話です。高度成長時代に地方から東京へ大勢の人が働きに来たことと似ています。

でも、だからと言ってたとえば日本人の稼ぎ手が中国に働きに行くか?というと、なかなかそのパターンが主流になるという話は難しいわけで(確かに、ごく一部にはそういう例もあるのだとは思います)。もっと言うと、海外で稼いだおカネを「ツケ」の支払いに向ける事の難しさはあきらかでしょう。ゆえに、今の日本にとってこの提案はあっさりボツ、ということになりますね。

動きたくても動けない以上、そこで開き直って勝負するしかない、たとえ少子高齢化が続いても、その中でできるだけのことをやっていくしかない、というのが動けない者の答えになるのだろうと。それが結局は自公政権への消極的賛成、ということですかね、日本の文脈で考えると。

批判のポイント

10月14日号のBusiness and financeには、神戸製鋼の品質偽装スキャンダルについての記事があります。

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The Economistの批判のポイントは、偽装そのものに加えて、これまで各国・各分野で起きてきた類似の事例から学んでいないこと、すなわち内部告発の軽視や偽装発覚から公表へのプロセスなどについて、「またか」と思わせるような展開だったことにあります。このおかげで10月11日の段階で株価は1/3ほど値を下げたのだとか。

ご丁寧に、安倍首相がサラリーマンだった時代に同社に勤めていたことにも触れていますが、そのあたりは直接批判に関係するものではないと思います。

フォルクスワーゲンのデータ偽装問題もそうでしたが、以て他山の石とすべき事例、ということで、他の会社にぜひ学んでほしいお話だと思います。

中国経済がどの程度「強いのか」について現状を見ると

出張や、その他もろもろがかさなってだいぶ間が空いてしまいました。

さて、今日はThe Economist10月14日号のSchumpeterが取り上げている米中経済力の話を見てみたいと思います。直接的には、対北朝鮮、そしてイランあるいはシリアへの対応を考えたとき、アメリカとしては経済面での制裁を効果的に実施したいわけですが、The Economistが指摘している通り、外国為替決済について中国企業は依然としてドルを使わざるを得ない立場にいるので、そこはアメリカの影響力が絶対的に強い部分だろうと思われます。

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Schumpeterが伝えるところでは、中国も独自の決済システムを持つ計画を進めているようなのですが、まだしばらく時間はかかるだろうとのこと。で、中国経済がどの程度強いのかを測る意味で、アメリカの市場を介して取引できる株式数がどのくらいあるのかを見てみたのですが、たとえばメインボードと呼ばれる取引市場で流通している日本株はネットでざっと調べたところ14銘柄あるのに比べ、中国株は90以上あるのだそうです。中国経済が、アメリカのシステムに組み込まれている度合いがそれだけ高いというふうにも読める数字だと思うのですが、だとすると対北朝鮮で中国が制裁を強化する方向に向いているという最近の報道も、ある程度頷ける要素があるのかな、と思います。

聞き違いかな?

ネットで流れているThe Economist9月9日号のLeadersには、このほどアメリカのトランプ大統領が廃止を宣言した、不法移民の子女に対するアメリカ滞在許可を認めた大統領令を巡る解説が出ています。それによると、これらがアメリカで起業できている確率は一般のアメリカ人の2倍ほどもあり、アメリカ経済への貢献度も大きいのだそうです。しかしながら、不法移民であることを理由に彼らを送還しようとすると莫大な経費が掛かるのだとか。現在の移民に関する法律がその事実を直視できておらず、法律として役に立たないものになりつつあるのを、大統領令というパッチ当てで凌いだのがオバマ大統領であったところ、トランプ大統領は「それじゃあダメだろう」ということで6か月と言う期限を切って議会に責任ある対応を促した、というのがThe Economistの見方です。

日本のメディアは、これがトランプ大統領の移民いじめであるかのような報道をしたように思うのですが、それは私の聞き違い?