新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

あけましておめでとうございます。

昨年後半は、個人的な事情もあってなかなかブログ投稿が捗りませんでした。今年は少しでも時間を見つけて、興味深い記事を拾ってゆきたいと思っています。

さて、新年一本目の投稿は、電子版のSchumpeterが予測する2018年のビジネストレンドについて。

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記事によると、特に大企業の動向としてですが、2018年にはそれまで研究開発中心だったAIなど先進技術が、むしろ企業の命運を決める重要なファクターとしての役割を演じるようになるだろうとのこと。

確かに、どこそこの企業がAIベンチャーを買っただの、AI活用の研究をしているだのといった報道が相次いだのが2017年だったと思います。それが2018年に早くも結果につながってくる事例が出てくるとすれば、目に見える変化と言えるのだろうと思います。

逆に、そうでない経営者は退場を余儀なくされるということのようで、たとえばフォードのマーク・フィールズCEOは(かつてマツダの社長もやりましたよね)は、The Economist誌によると「記録に近い収益にもかかわらず」、2017年に役員会で技術革新への取り組みが甘いとされてCEOを退任しています。

変化を読み、変化に大胆に取り組む。言うのは簡単ですが、そういう経営者でないと務まらない世界というのはまた、厳しい世界ですね。

アベノミクスへの評価

11月18日号のFinance and economicsには、アベノミクスの5年を総括する記事が出ています。基本的に日本で報道されているものとあまり変わらないのですが、よく読むとThe Economistならではと言える洞察が含まれています。

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曰く、株価の上昇や戦後最長となる成長の継続があること、期待されていたよりは遅いかもしれないが賃金が上がったこと、物価の上昇も少しずつ見えていること、雇用が増えたことに対して、インフレ目標2%には全然到達していないことなど。項目的には日本で報道されているものと大差ないのですが、例えば雇用について、女性や高齢者が労働市場に再参入することで人手不足が緩和されたこと、外国人労働者が100万人を超えたことなど。特に「焼き鳥屋の従業員にはベトナム人移民が雇用されている」との記述は日本のメディアでは出てきにくいそれではないかと思います。

普通に日本のメディアだけ見ていると、それは技能実習生だったり、留学生のバイトだったりするようなイメージがあり、本格的な移民について報道されることは少ない(というか、法律的にありえないことになっている?)と思うのですが、肌感的には「それは本当か?」と時々感じるほど、街に住む外国人は増えていると思うのです。むしろ、The Economistがサラリと書いたように、日本にはベトナム人の移民が居て、その人たちが人手不足の中で飲食小売業を支えている、と考えた方がしっくりくるくらいに。

何といっても水は低きに流れるわけで、そういう意味では仕方ない現象なのかもしれませんが、アベノミクスを評価するなら、経済的な指標だけでなく、そういった質的な変化も併せて考えるべきではないかと、ちょっと思わされた記事でした。

選挙によって安倍政権が背負ったもの

10月28日号のThe Economistは、Leaders そしてAsiaでそれぞれ日本の総選挙がもたらした結果について論評する記事を載せています。Leadersのほうは、今回の選挙結果について事実関係を伝えつつ、改憲への布石はまだ道半ばであることを指摘しています。

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The Economist的に言うと、少子高齢化が進む成熟した民主主義国家である日本は外交的脅威にはならないということのようで、それを踏まえてむしろ改憲とそれによる日本の安全保障分野での貢献可能性を歓迎する論調になっています。

Asiaのほうではしかしながら、選挙結果やその後の国内メディアの論調などを参照しつつ、経済そして少子高齢化への取り組みなど、短期的に優先される課題について出口が見えないこともあってか「選挙によって政権の正当性は確認されたかもしれないが、その負託(Mandate)は弱い」との結論です。

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いずれも妥当性の高い論評であるように見えますが、第一者たる日本国民としては、支持率の必ずしも高くなかった内閣に絶対多数を付与したのだから、それなりの強い負託を与えるべきところ、野党の自壊もあってこのような結果となったことについては憂慮すべき状況ではないかと懸念します。すなわち、十分な負託のない絶対多数は、与党の政治家に「たいした仕事がないのに絶対多数≒サボっていても良い」状況をプレゼントしたことに他ならないからです。

せめてもの成果として、短期そして中期的に大きなリスクを抱える東アジア地域にあって、外交的にブレない政権を保全したことは評価できると思います。がしかし、そのぶん内政面で低レベルの緩みや油断が出てこないか、そしてそれが政権の足を引っ張ることにならないか、というあたりが慢性的な懸念材料、と言えるのではないかと思いますが、果たして?

THAADのせいで?

10月21日号のThe EconomistはBusinessで、中国から撤退することを表明した韓国のロッテマートに絡めて、THAADに関係したと思われるその他の事情も広く紹介しています。

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まず、どうしてロッテマートなのかというと、グループが保有するゴルフ場をTHAAD設置場所として提供したから、ということだそうです。結果、中国に99店舗あったロッテマートのうち77店舗が消防法違反などの容疑で閉店させられ、営業不振で13店舗が閉店したのだそうです。結局ロッテは撤退を表明したわけですが、他にも①ソウルへの中国からの観光客が来なくなった、②化粧品が売れなくなった、③現代自動車の売上が落ちているなどの現象が確認されているのだそうです。あと、ロッテマートの中国での経営自体がそもそも赤字傾向だったという分析もあるようです。そうだとすると、何が何に作用して起きた話なのか、読み解きはやや複雑になってくるのかなと。

中国と韓国は、為替を巡る通貨スワップ協定を延長させており、それが関係改善へのシグナルかもしれない、という観測もあるようで。ものごと、単純な見方ばかりではないということでしょうか。

その他

台風と同時に衆院選を終えた日本ですが、The Economist電子版も最新記事でその結果を伝えています。中身は安倍政権の今後について、そして希望の党がどのように登場し、どのようにコケたかを簡単に伝えたものにすぎないのですが、なるほど、と思わされたのは議席配分をしめしたグラフで、自民党公明党希望の党立憲君主党と来てその次が無所属、共産党をはじめとする既存野党は「その他」に括られているというものです。

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私はかねてから、たとえば社民党など議員がほとんどいないにもかかわらず、選挙戦を伝えるニュースなどで必ず党首の発言が伝えられることに違和感を感じていました。いわゆる「諸派」というコトバがありますが、そんな括りで良いのでは?と思っていたので、このグラフを見て「そうだね」と感じたのでした。

その他が良い悪いということではなく、国政なんだから大局を考えようよということですかね、その意図は。

AIの進化の話

10月21日号のThe Economistは、Science and technologyで、新しい人工知能囲碁の世界チャンピオンを破った人工知能を寄せ付けずに完勝したこと、そしてなによりその人工知能が過去の棋譜を全く参照せず、いわば独学で強くなったことを細かく伝えています。

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このニュースは日本でも興味深い話題として伝えられたと思うのですが、新しい人工知能である「アルファ碁ゼロ」が、ルールだけ教えられた後のトレーニングを3時間ほど積んだところで「石を取りたがる」という、囲碁の初心者が示す特徴を示し、丸一日たったころには熟練のプロのレベルに達し、二日後には2016年に韓国のチャンピオンに勝ったバージョンよりも強くなったのだとか。

何でも囲碁やチェスなどの強さを表す数値でElo ratingというのがあるそうなのですが、この数値で200点違うと、勝率はわずか25%になってしまうところ、韓国のチャンピオンが3526点、中国のチャンピオンが3661点、で「アルファ碁ゼロ」は40日ほどのトレーニングの後、なんと5000点を超えるレベルに達したのだとか。

日本では、井山裕太さんの7冠復帰が話題になりましたが、ネットで調べてみると彼のランキングは世界で30位くらいだそうです。そのうち、師匠はAI、と言う棋士が登場するようになるかもしれませんね。

動きたくても

ネットでは10月21日号が流れているThe Economistですが、Leadersのトップで最近の国際政治~特にグローバリズムへの逆風~について興味深い分析をしてくれています。

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曰く、ドイツでもオーストリアでも(そして多分、この週末に選挙がある日本でも)グローバリズムについて行けなかった人たち、あるいはついて行きたくても諸般の事情でそうできなかった人たちの声が政治の前面に出てきたことの背景には、「場所」の問題があるのだろう、との読み解きです。

「場所」は、たとえば経済が比較的良い地域があったとして、そこへ移りたくても移れない人たちにとっての制約条件になります。自由に移動し、自由に稼ぐ成功者たちは行く先々で稼いで税金を払うので、それを託された政治はその税金を何かに使い、ツケを作るのですが、やがて稼ぎ手がどこかほかのところへ移ってしまうと、政治は年金のツケを含めてその後始末に追われることになります。「稼ぎ手」を製造業(特定の企業ではありません)とし、「どこかほかのところ」をアジア諸国に比定すると、「政治」はまさに今、日本が置かれた状況に他ならない、ようにも読み解けます。

そうするとアメリカでトランプ大統領が出てきた背景と同じく、自由貿易協定を見直して分配への配慮を求める意見が強まる流れが出てくるということかと。立憲民主党が勢いを持つ理由は、いくら経済を良くしても給料は上がらず、「ツケ」の支払いは結局自分に回ってくる(消費税アップ)ことへの苛立ちに起因するのではないか、と読み解けるのではないかと思います。

The Economistの示唆する解決策は、「経済の良い地域へ人の移動を促進すること」だそうで、それに従うと例えば好景気に沸くアジアへ能力ある人を振り向ければ、その人も経済も幸福になるというお話です。高度成長時代に地方から東京へ大勢の人が働きに来たことと似ています。

でも、だからと言ってたとえば日本人の稼ぎ手が中国に働きに行くか?というと、なかなかそのパターンが主流になるという話は難しいわけで(確かに、ごく一部にはそういう例もあるのだとは思います)。もっと言うと、海外で稼いだおカネを「ツケ」の支払いに向ける事の難しさはあきらかでしょう。ゆえに、今の日本にとってこの提案はあっさりボツ、ということになりますね。

動きたくても動けない以上、そこで開き直って勝負するしかない、たとえ少子高齢化が続いても、その中でできるだけのことをやっていくしかない、というのが動けない者の答えになるのだろうと。それが結局は自公政権への消極的賛成、ということですかね、日本の文脈で考えると。