新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

表紙かぁ・・。

5月12日号のThe Economist、表紙と、そしてLeadersのトップはソフトバンク孫正義社長、そしてシリコンバレーの一大投資ファンドとして注目されているビジョンファンドの話です。

www.economist.com

ビジョンファンドは、ソフトバンクと中東問題についての話で名前の出てこない日はないかもしれないサウジアラビアムハンマド・ビン・サルマン皇太子(その筋の業界ではMbSと略称されています)のジョイントでできた投資ファンドで、AIやロボット、IoTなど「尖った」技術にどんどん投資していることで日本でも知られています。The EconomistのLeadersもさることながら、Briefingでその投資活動の詳細が伝えられたことは注目に値すると思います。

www.economist.com

かなりのリスクを取っていると思われる同ファンドの投資行動ですが、The Economist曰く、「このファンドの評価が定まるまでにはしばらくかかるだろう。ただし、彼のファンドが投資しているテーマの多くが、明日のネット社会を形作るために必要だったり有望だったりするものなので、社会の進歩のために必要な投資をしているとは言える。」という具合に、投資の本質について肯定的な見方をしています。

サウジの皇太子については、ディズニーランド誘致なども含めた急激な自由化政策などが、一部には批判を招いているようですが、それも考えがあってのこと、という読み解きが一般的になりつつあり、それと孫社長の思惑が一致したのなら、確かに注目に値するものだと言えそうです。どうしてだか、日本のメディアでこういう報道が先行することはないんですけど。

年較差の話

今日は、The Economist電子版で目を引いた記事について。

www.economist.com

記事ではオランダの大学の研究者が発表した内容が参照されていますが、地球温暖化(ではなく、気候変動と言った方がより正確だと思われるので、以降はこのブログでもそう書きます)による影響は国や地方によって異なり、年較差の変動も無視できない大きさになるとのこと。たとえばブラジルでは、2100年までに今より2割も年較差(年間の最高気温と最低気温の差)が大きくなるだろうと予測されています。

ざっくりとした分析では、温帯以北に多く分布している先進国ではその度合いが低く、亜熱帯以南に多い途上国でその度合いが高くなっているとの読み解きもあります。

いずれにしても2割とはちょっとびっくりで、仮に夏35度、冬-5度になる土地があったとして、元々の年較差は40度なわけですが、2割増しだとこの格差が48度になるということですから、たとえば夏が38度、冬が-10度くらいになるという計算です。日本は地理的にあてはまらないので大丈夫、みたいな解釈があるのかもしれませんが(なので、日本のメディアはこういう報道にあまり注目しない)、世界的には「だから先進国は対策費をもっと払え」、みたいな論調があるとして、この記事や研究報告はそれを下支えするものになるのかもしれません。日本もまた、そういう社会で生きているということを、明示的に認識できることの重要さをこの記事は物語っているのかなと。

 

3より4

5月5日号のThe Economistは、LeadersとBusinessの2本の記事を割いて、アメリカの携帯電話会社T-mobileとSprintの合併協議について詳しく伝えています。それぞれちょっとずつ違う中身の記事になっていまして、Leadersのほうは合併がもたらす市場の変化と消費者利益、そして大規模設備投資についての考え方が論じられています。

www.economist.com

なんでも、イギリスの調査会社によると、世界の携帯電話市場では、4社が競争している環境では3社による場合に比べると消費者の支払うコストが25%くらい安くなるのだそうで、そうだとするとこの合併協議は認められない場合もありうるのかもしれません(日本では楽天が第四の携帯電話会社になる予定ですが、そうすると価格が下がるという理屈になりますね)。でも協議を仕掛けたT-mobile側には別の勝算があるようで、それは5G回線の充実だそうです。クルマの自動運転などに必要とされる5G技術では、アメリカよりも中国や、どうかすると韓国あたりの先行が伝えられる中、この合併がアメリカ初の5Gネットワークをもたらすものであるというのが当事者の主張だそうです。これについて、The Economistの主張としては珍しく、韓国が進める共用インフラ投資としての5Gネットワーク整備に注目し、一民間企業に任せるよりは、国全体で進めた方が良いのでは?というトーンの批判的な意見を結論にしています。

 

もう一本、Businessの方の記事では、T-mobile側の仕掛けによって当初の目論見が狂ったかもしれないソフトバンクの対応についても書かれています。

www.economist.com

それによると、少数株主としてある程度良い条件を獲得できたようで、説明としては対等合併であっても、今後はT-mobileが主導権を握るであろうことが書かれています。

但し、規制当局の判断についてはまだ難しいところもあるようで、The Economistは過去の判断事例などから50-50の合併が最も望ましいという専門家の見方を伝えています。

代わるものがない?

4月21日号のThe EconomistAsiaのコラムで最近の安倍政権が苦境にあることを簡潔に伝えているのですが、その切り口は支持率低下でもスキャンダルでも野党の攻撃でもなく、自民党内が揺れているというもので、その意味では日本のメディアとちょっと目の付け所が違うのかなと思わなくもない記事です。

www.economist.com

でも読んでみてちょっとがっかりしたのは、そもそも自民党中選挙区時代から続く派閥の連合体で云々という、日本のメディアでは手垢にまみれたような読み解きで、旧額賀派竹下派に模様替えしたのは閣僚ポストが少なかったからだとか、それが高じて竹下派が安倍政権支持を止めるのではないかとか、いささか古い見方しかしていない点でした。

それはちょっと洞察が浅いのでは?と思いながらもこの記事について考えてみたとき、もしかしたらと思われたのは「リーダーがいて、事務所があって銀行口座さえ持っている」という派閥に関する記述でした。法人格があるわけでもない「派閥」が、銀行口座を持てる不思議が物語るとおり、依然として派閥は実質的に機能しており、それに代わるものがない、ということではないかと。

小選挙区制が派閥の弊害を減らす、と期待されたのは一昔前、小沢一郎小泉純一郎の時代だったと思います。その後今に至るまで、選挙制度改革の功罪が広く総括されることはなかった(総括されて欠点が明らかになると、解決のための対案が求められる、ということにつながりますね)と思うのですが、だとするとこの記事が伝えるのは、日本人が無意識に避けている「自己革新の失敗」すなわち制度を変えても代わるものがないので、結局古い仕組みをそのまま使っている、という指摘なのかもしれません。

ドイツ、確かに手強そうかも

The Economist4月14日号のLeadersトップ記事とSpecial reportは、ドイツがテーマです。先ごろようやく連立政権が発足したニュースは国内メディアでも取り上げられていましたが、The Economistが見るドイツは日本のメディアが伝えるそれとはちょっと違っていて。

www.economist.com

より開けた、多様な国になりつつある、というのがLeaders記事のタイトルです。従前は民族的にドイツ人の比率が高いことで有名な、純血の国という評価が高かったところ、メルケル政権が進めた移民受け入れ政策などにより、ドイツ人なるものの属性が、民族的な出自よりも市民権で規定されるようになってゆくだろう、との見方です。そうなると、これまでの保守的な政治の在り方も変わってくるはずで、メルケル政権もそろそろその役目を終えつつあるのでは、というところまでの洞察を加えています。

裏付けは、Special reportに詳しいと思うので、時間があったらぜひ読んでみたいかなと思っています。

ハンガリーの選挙について思ったこと

The Economist誌4月7日号のEuropeはトップ記事でハンガリーの総選挙に関する予測記事が出ています。

www.economist.com

日本のメディアで速報されているとおり、与党が圧勝してオルバン首相の続投が決まったというニュースは耳にされた方も多いと思います。日本とあまり関係が強いというわけでもないハンガリーの選挙結果がニュースで取り上げられる意味はどこにあるのか?と考えたとき、いくつかの読み解きが頭に浮かびます。

まず、現与党が移民排斥を訴えているということの意味について。日本も移民受け入れに消極的な政策を取ってきましたが、日本の場合はそれをかいくぐって多くの外国人が住むようになってきているのはご承知のとおりです。ハンガリーはちょっと逆で、そもそもが移民の多い国だったのだそうですが、最近の移民は質的に違う(イスラム系)ということなのかと思います。

つぎに、ハンガリーの場合は対EUということになりますが、地政学的な面で自国のそれと利害関係が一致しない国際世論との対峙というのがありまして、移民受入れ問題もそうだと思うのですが、国益追求を旗幟鮮明にするリーダーを立てることにより、国際社会の求めるものと自国の国益をどのように折り合いをつけてゆくのかという点があります。

現在ハンガリー経済は好調だそうですが、その要因の一つがEUへの出稼ぎにあるという分析があり、だとすると出稼ぎは良くて移民受け入れは嫌という「いいとこどり」との批判もあるのではないかと思われるところ、仕方ない話かもしれませんが選挙で国民はやっぱり与党を選んだということのようで。

The Economistも指摘するように、歴史的にはハプスブルグやボルシェビキにやられっぱなしだったことも、外交面でハンガリーをかたくなにしているのかもしれません。東アジアにもそういう例はあったりしますし・・。

それでも、「反リベラル」を前面に出す与党の戦いぶりはいかがなものかという国際メディアの論調は一貫しているように見えます。

選挙の仕組みが与党有利に作り変えられた、反与党の要である若年層が出稼ぎで不在のため与党に有利になった、はては学生時代に奨学金を出してくれた恩人であるジョージ・ソロス(リベラル派の後ろ盾)を激しく攻撃して選挙を戦うオルバン首相の人格にも疑問符が付けられていたりするようです。

そうした背景も含めて、自国の国益追求を強く訴える小国(ハンガリーは人口1000万人くらい)とも、しっかりと粘り強く調整を図ってゆくであろうEUの対応ぶりは、国際社会なるものの運営を考える上で参考になる事例ではないかと思います。やがて流動的な場面が一気に顕在化するかもしれない東アジアにおいて、日本がその立ち位置を考える上でも。

 

50年かけてもなお

ネットでは4月7日号が流れているThe Economistですが、Leadersは殺人の増加、フランスのストライキ、データセキュリティ、増える中国のエアライン、イギリスの男女間賃金差問題というラインナップで、まあそうだねという感じで眺めています。

目についたのはUnited Statesのトップ記事で、キング牧師暗殺から50年たって、どのくらい人種間の融和が進んだのかについて書かれたものです。

www.economist.com

日本でも、たとえば追悼記念式典があっただとか、メモリアル的なニュースは流れてましたが、50年を経た具体的な変化はどうなのかというような、判断を伴う論評はまずメディアには出てきてないと思います。

The Economistが取り上げたのが、人種間融和を表す指数です。これは100が完全に分離されていて、0が均等に混じり合っている状態だとするものですが、50年前のアメリカにおける白人と黒人の生活の場は、平均で93くらいだったそうです(ほぼ分離された状態)。それが今では全米平均で70くらいに下がってきていて、都市によっては80を超えるニューヨークなどまだ少し高い場所もあるようですが、人種間融和はそれなりに進んできている、あるいは50年かけてもそのくらいしか進まない、のどちらとも取れるのですが、要はそういうことかという現状を数値で認識することの重要性を改めて感じたニュースでした。