新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

なぜ経済学者は帝政が好きなのか

11月4日号のEconomics Focusは、いつにも増して洞察に満ちた評論を提供しています。日本と旧植民地諸国(これに中国を加えても良いでしょう)の間にしばしば見られる摩擦、すなわち「植民地時代に日本は良いことをした」とのテーゼに対して起こる反発が、たまさかメディアの慰みものにされて終わることがありますが、今回はこれに関する歴史認識のお話です。

「インドのシン首相がオックスフォード大学の講演会で、英国植民地時代の結果としてイギリスがインドに残した便益を評価した」というあたりから、経済学者にとっての「お楽しみ」である帝国主義の功罪に関する分析が始まります。いわく、①風や海流の影響で船のつきやすかった島々が先に植民地化された、②植民地化された島ほどインフラが整備されるなど栄えた、③植民地化された島ほど現地人の人口が減った。またインドでは藩王に子がないと、藩地は植民地政府に没収され、そういう土地には学校や病院、道路の整備が遅れた、など。

統計データから判る事実関係をどのような因果関係で結ぶか(人が減って大変だから、あるいは藩王の力が及ばず開発が遅れているから、植民地にして助けてあげようとした、など)によって植民地時代の総括に関する方向性はいくらでも変わります。議論は先鋭化し、工夫すればどのような論拠だって見つけうる状態といえるかも知れません。The Economistは「(帝政に関する)統計的な数字の組み合わせが経済学者の興味をしっかりと掴んだ」と総括しています。

論拠のしっかりした数字をどのような因果で捉えるか、で「正しい歴史」すらいかようにでも変わるのだということを言おうとしているのでしょうか。

多面的な分析と客観性を保った議論を続けるのは(特に自国が当事者であった場合)簡単ではないと思います。特にイギリスのメディアとして、明日誰かに爆弾を仕掛けられてもおかしくないくらいの歴史認識に関する議論を堂々と仕掛けてくる、というのが面目躍如だなあと思いますね。

その影でこっそりと「スペイン植民者に比べればイギリスは優しかった」だの「インドでは統治システムを変えなかった」だの、小ずるい自己弁護は巧妙に織り込まれてたりはしますが。このあたりはご愛嬌と言えるのか?

日本が植民地に対して行った、良いこと・悪いこと・普通のこと。それを統計的な数字に基づいて経済学者に分析させたらどんな結果が出てくるのでしょうか。一寸興味を引かれた記事だったので触れてみました。

その他、今週のScience and Technologyでは、白目のある人間は目による社交性の動物だ(動物は白目が白くないのは視線を悟られないためとか)、象は鏡を見て身づくろいをする高等な動物だ、などのトリビアが並んでいていつものように楽しいですが、全体的にはやはり中間選挙の週だったこともあり、深みのある論評は少ない週だったように思います。Obituaryは自由主義経済を唱えた経済学者ラルフ・ハリスの死を伝えています。