新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

欧州的価値を巡る議論

12月9日号のCharlemagneは、倫理観を巡って欧州の政治家が盛んにコメントを発していることを紹介しています。事の発端はパリの枢機卿が人気テレビ番組の紹介した胎児基礎細胞Stem Cellを使った研究への助成に対して「人間の胎児を破壊する行為への支援」とコメントしたことだそうですが、そのほかにも文化や宗教に関する議論が各国の政治の舞台で交わされるようになった、ということでした。

The Economistは、「伝統的には仕事やお金、福祉のことを扱うのが政治で、文化や宗教についての対応はアメリカほど表に出てこなかったものが、各政党間の政策にそれほど大きな差がなくなった現代社会において、真のモラールに関する懸念に応えるため、政治家が文化や宗教を取り上げだしたのではないか」、という見方を支持しています。

とはいえ依然としてヨーロッパ人はアメリカ人に比べて宗教心も薄いし、教会にも通わない、アメリカのような宗教的右派は存在しないし、福音派なら怒り出すような話にもアツくなる人は限定的だ、との見方からアメリカとヨーロッパの宗教・文化議論は質が異なる、という議論を展開しており、もしもアメリカ人特有の強い宗教観に近いものを持つ存在がヨーロッパにいるとすればそれは「ヨーロッパに住んでいるイスラム教徒」ではないか、という見方を紹介しています。

文化・宗教の面で自他を比較し分析することは、たぶん容易な仕事ではないと思います。今回も、「アフリカ等ではアメリカほど宗教による影響が大きくはないだろう」と高を括った論評がなされていますが、実際のところ社会不安の影響をまともに被るのは常に末端の人たちなので、文化的・歴史的重合制の高いヨーロッパの地においては宗教以外にも頼ったり参考にしたりする相手がさまざまなところに居るはずだ、と言う仮説は成り立つような気がします。実際はといえば、明らかにアメリカ語化したテキストだなあ、と言う心象が一向に晴れずに居るのですが。