新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

イランの立場に立てば

1月13日号はMiddle East and Africaで立ち直りつつあるルワンダ(個人的にはとても興味あり)や、アメリカが再びソマリアへの関与を強めつつあることと併せてイランはイスラエルをどう見ているか、という分析を行っています。この記事を読んでいて、不十分な事実検証を類推と予断で補うしかなくなったとき、メディアはその分析がぶれることがある好例ではないかという心証を持ちましたので、少しそのことを書いてみたいと思います。

イスラエルの治安大臣に言わせると、イランのアフマディネジャド大統領が「イスラエルを地図上から抹殺する」と言ったことは「未曾有の危機」だそうですが、1981年にイラクのオシラ原発を爆撃したときと違い、イスラエルにとってイランの核関連施設を攻撃することはかなり難しいと分析されるそうです。情報不足、軍備不足が主な要因と同誌は見ています。

英国のサンデータイムスにはイスラエル軍消息筋の話として「イラン核関連施設への核爆撃の用意がある」という報道があったそうですが、The Economistはこの報道の信憑性には懐疑的な態度を取っています。いわく、『仮にブラフだとしても「核に関するあいまい戦略」をとってきたイスラエルの当局者がこのような話をするだろうか、もっとも先日首相がうっかり自国の核保有をほのめかしたこともあったけれど。』

一方、現在イランがおかれている状況は、と見れば、差し迫った脅威は東にアフガニスタン、西にイラクという不安定地域を抱える地勢的な危機対応であり、イスラエルとの対峙は緊急性の点でこれに劣るため、イランの核武装はむしろ防御的では、という識者の分析を参照しています。が、これに触れた後、『核は一度持ってしまうとその考え方も変わり得る』、と論拠に乏しい類推で逆転の結論を出しています。このあたり、アングロサクソンの底知れぬ懐疑心の表れというか、参照している分析からは見事にズレています。

事実関係だけを整理すれば、タリバンサダム・フセインという隣国の強者をアメリカが排除してくれたため、イランからすれば安全保障面で地域の枠組みを自国中心に作り直しやすい状況ができあがっているということがいえると思います。The Economistが参照しているのも、そのためかシーア派、スンニ派の混交宗派ともいえるミレナリアン・カルトという新宗派(?)が台頭しつつあり(アフマディネジャド大統領も信徒だとか)、その目指すところはイスラムの主導権をイランが握ることだとか。

であればなおさらイスラエルへの恫喝はあくまで旗印であって、固めるべきは足元であるはずだろうという分析に説得力を感じるのは私だけでしょうか。
ドウデモイイデスヨ、とばかりは言っていられない話なので、引き続き注目してみたいと思っています。