新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

グローバリゼーションの経済学(言うは易し・・)

1月20日号はEconomics focusのページでThe great unbundlingと言う題でグローバリゼーション時代の貿易経済モデルの可能性について述べています。

私は経済学の専門でも何でもないのですが、大学が経済学部だったこと、多少経済学に関係する知識を有すること、そして仕事でも少しはこれらを使うことがあるため、見かけは面白くも何ともない記事にも反応してしまうことがあります。

経済学の解説記事は、The Economistと言えども世間的に確立された学説から出発しなくてはならないため、大新聞の経済解説記事と五十歩百歩になることも往々にして見受けられるのですが、分析が今日的な分だけ読んでいて得をしたような気になることもしばしばです。

さて、ちょうど今WTOドーハラウンドの閣僚レベル交渉がニュースをにぎわしているところにぶつけてきた感じもしなくはありませんが、本論は「グローバリゼーションは新しい経済モデルを必要とするか?」というものです。

国際貿易論の基本となる考え方はリカードの「比較優位」による貿易が二国間の富を最大化するというものです(ウィキペディアの関連ページは以下の通りです)。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89

すなわち、A国がワインをシャツより安く作り、B国がシャツをワインより安く作るとした場合、仮にA国のワインがB国のワインより高くても、A国はワインを輸出しB国はシャツを輸出したほうがお互いの経済が成長する、という考え方です。解説は、ウィキペディアの文章を孫引きさせていただくと、

>>小国は労働者一人当たりでワイン2単位、毛織物4単位生産できるとする。<<

>>大国は労働者一人当たりでワイン10単位、毛織物30単位生産できるとする。<<

>>小国はどちらの商品生産においても大国より生産性が低いということになる。<<

>>では小国は大国に対してどちらも競争力がないのであろうか。答えはノーである。小国はワイン生産において比較優位なのである。ちなみに、大国は小国よりもワインの生産性が高いため絶対優位となる。<<

>>なぜかというと、小国ではワイン1単位と毛織物2単位が等価、大国はワイン1単位と毛織物3単位が等価であるからだ。つまり、小国のほうがワインを割安に作れるのである。<<

>>等価とはどういうことか?<<

>>もし、どちらの国も労働力をフル活用している状態(生産可能性辺境線)にある場合、ワインを多く作るためには毛織物の生産を減らさなくてはならない、<<

>>その時に、小国では毛織物生産を2減らさなければワインを1作ることが出来ない。大国は毛織物を3減らさなければワインを1作ることが出来ない。これが、等価という状態で、小国は交換比率の上で優位である。<<

ということになります。

権威ある学識経験者もこの学説の妥当性を説くところ、The Economistは分業の考え方に着目した、いわば定説への反論について紹介した上で、新しいモデルの必要性を示唆しています。

すなわち、原材料調達から複次的加工を必要とする産品(たとえば自動車)については段階別の国際分業が可能であろう、ところがリカードモデルはこれを想定していないため不十分である、ということですね。

さらにThe Economistは、アメリカの製造業についてやや保護的な発言の目立つCNNのルー・ドブス氏を引き合いに出して、(製造プロセスの)海外立地は「ルー・ドブス効果」なる変化をもたらすことになる、とも予言しています。

すなわち、①生産拠点の海外シフト、②余剰労働力の発生、③これを活用した競争力ある新産業の創造、④新産業の飽和と価格低下というサイクルまで見えてしまうため、海外生産のメリットは長期的には続かないとする考え方ですが、さすがにここまでは保守的な経済学者の是認するものとまでは言えないようです。

いずれにせよ工程別の国際分業が可能になったことで、世界経済の地図は「これまでよりずっと細密な筆で色分けされるようになった」(The Economist)ことは確かと思います。これをモデル化するというのは考えただけでも大変な話ですが、コロラド大学のマルクセン教授による「詳しいポケット本の読者向けになら、どんな結果の出るモデルだってでっち上げることが出来るよ」というコトバを引き合いに、確かに全ての労働者がそれだけ多芸多才なら可能でしょうね、という同誌一流の皮肉っぽいコメントで議論は締めくくられています。

他に、Science and technologyのページでも、言語による色の捉え方の違い(偶然ですが、ここで触れられているウェールズ語の感覚、〜緑を青と呼ぶ〜、は古い日本語でも同じです!)やノーベル賞やアカデミー賞の受賞者は、ノミネートだけされて受賞しなかった人より平均2年長生きする、などの記事も面白かったのですが、今週は時間切れです。明日から1月27日号に移ります。