新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

線引きについての話(ボスニア・スルプスカ共和国他)

1月27日号はEuropeのページで旧ユーゴの近況について伝えています。セルビアでは急進主義政党の躍進が目立つが、急進とは名目で主張としてはEU寄りであること、ただしコソボ問題については慎重な対応を取ろうとしているためコソボ側が警告を発していることがその主な内容ですが、コラム記事としてボスニア・ヘルツェゴビナ共和国のスルプスカ共和国(同国の東側セルビア寄り、セルビア人主体)がモンテネグロやコソボと同等の自治権を求めているため、ボスニアにおける国際監視委員である「高等代表」が、EUによる監視への移行期限を延長することを願い出ているとの記事が添えられていました。現在ドイツ人のウィットハウアー氏が代表を務めているそうですが、同氏は「何があっても戦争に逆戻りすることはないだろうと思うけれど。」とコメントしたそうですが。

The Economistを読んでいて、トリビアといわれればそれまでなのですが、たとえば南米や欧州の辺境で起こった出来事も、ある程度細かく伝えてくれることがありがたいと思うことがあります。なぜなら、バランスよく世界の出来事を頭に入れておきたいと思うとき、英語のメディアを含めてもこれだけまとまった形で異なる地域の時事問題を把握できるものがなかなか見当たらないからです(Financial Timesは別の意味で詳細な情報をまとまって見られますが)。一つの効用としては、ある程度バランスよい時事情報を把握しておくことで、良くありがちな「今の日本は・・・」的な近視眼的批判の妥当性を見分けるためのスケールを持つことが出来たりもします。今週号のEuropeが必ずしもそうだというわけではないのですが。


で、何が読めたかと言うと。


トルコのイラン・イラク国境近くの町セムディンリで起きたクルド人によるテロ事件への対応として、トルコ中央政府が繰り返し善後策を打ち出しているのに効を奏さないこと、EU内でホロコースト否定やハーケンクロイツの掲示を違法とする案をドイツ政府が提案していることなどについての論評を読んでいると(ちなみに以前、ハーケンクロイツ、とアメリカ人に言っても通じなくて困ったことがあります。英語ではSwasticaと言うのですが、そのときは知りませんでした)、どこまでが許されてどこまでがそうでないのか、それぞれことの本質は違うのですが、どれも「線引き」の問題が大きく影響していることが見て取れます。モンテネグロやコソゴは良いがスルプスカはだめ、山の向こう(国境越え)では良いがこちら側ではだめ、議論は良いが否定や掲示はだめ、などなど。

これらのいずれもが言わばman-made obstacles(人が作った障壁)に関するarbitrageous(仲裁的)な議論であるため、線がどこで引かれるか、がポイントになるわけですが、「自由貿易の信奉者」たるThe Economistと言えどもさすがに快刀乱麻の名案が出る問題ではないようです(だからこそ記事になっているわけですが)。ヨーロッパの人たちも大変だな、ということがわかるだけで、極東問題が突出して大変な国際問題ではないことの認識が持てると、多少対応への腰も据わろうというものです。うーん、最後はややあつかましいコメントになってしまいました。悪しからず。