新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

オフショア金融・その光と影

2月24日号は特集記事でオフショア金融について取り上げています。なかなか読み応えのある記事ですが、今日はその一部について、かいつまんで。

さてこの記事で取り上げられているOFC、すなわちオフショア金融センターと言われる小国、または『英国の』海外領土(ケイマン諸島バミューダ諸島などがどのような存在か、ということなのですが、「租税回避地」と言われるこれらの国・地域では、ある目的のために設定された大変低い税率により、節税を志向する世界の企業が競って登記をするという現象が起こっています。その目的とは、元々小国で経済基盤の弱い国・地域が、税金を安くすることで名目だけでも企業誘致を進め、せめて紙をやりとりする仕事で食いつなごう、というものでした。ゆえに英国でも、特定の領土(通常は本国から遠く離れた島など)でしか認められていません。

キャッシュフロー経営を求められる現代の企業からすれば「安い税金は何よりの企業育成政策」でしょうから、ある意味こぞってこれらの国々に登記を移すのは当然の市場原理と言えます。ただ最近は企業統治の公開性・透明性が求められる中、昔と違ってOFCの事務的負担も増えているようで、名目だけの企業誘致も「かつてほど楽な商売ではない」状態になりつつあるようです。

このへんは、知っている人は知っている話でしょうからあまり深入りしません。今回の記事のポイントは、「その結果何が起こったか」という点で、一つにはグローバリゼーションの影響でOFCに企業が逃げれば、オンショア(実体経済)の国々では不動産や弱者への課税が強まる惧れがあり、結果「グローバリゼーションは民生を圧迫する」という議論を助けるのではないか=The Economistが最も警戒する自由貿易の阻害要因となる、ということです。

悪いことばかりかと言うとかならずしもそうではなく、一つの効用として指摘されるのは「税率の競争」ということです。オンショア組でもアイルランドの法人税は12.5%。これに対抗してかどうか知りませんが、フランスのシラク大統領が「10%にしたい」と言ったとか。グローバリゼーションの波の中で、公共サービスと税率の各国間比較は「公共サービスに競争原理を導入する唯一の方法」だという指摘には説得力があります。その意味で、OFCがもたらす税率の競争というのも一定の意味があるのかな、と。とはいえ、競争力ある国(たとえば日本。法人税率40%、というとどれだけすごいか判ります)はあまり影響を受けず、むしろ国家の成長に税収の必要な中進国以下の段階の国々が影響をこうむるとすると、それは好ましいものではなくなります。

また、公開性・透明性の担保が不十分だと結局のところ脱税の温床となる、という指摘もなるほど、と思えます。すなわち、登記した企業がいくら自社の情報を開示したところで、その後ろにいる「真の投資家」についての姿が見えないと、結局脱税は防ぎきれない、という意見です。国際社会はこれらの懸念材料を払拭すべく各国間の協調を進めており、ブラックリストに上がった国々はその数を減らしつつあるようですが、依然としてOFCがオンショア経済にとっての懸念材料である点は変わっていないと言えます。結論的にThe Economistが説いているのはOFCを含めた国際的な情報交換と地道な脱税防止策の実施、そして先進国の減税によるOFCの競争力低減(なにせ日本は40%!)ということですが、OFCへ行こうにも英語が出来ないとつらいので、日本が危機意識を持つまでにはまだまだ時間がかかりそうなところです。