新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

不法移民に関する経済学的考察

6月2日号のEconomic focusは、増加の一途をたどるメキシコなどからの不法移民を巡るアメリカでの議論に関するものでした。

つい先だって、その現場たるメキシコに足を踏み入れたこともあり、興味深く思って呼んだのですが、非熟練労働者としてメキシコからアメリカへ移動するだけで時給は4倍近くにあがるとしたら、それはなるほど強い引力となります。また、移民に反対しようとする人から言わせれば、メキシコ人が労働力を供給してくれるおかげでアメリカ生まれの非熟練労働者は5%ほど安い賃金を強いられている、と言う分析もあります。

数字について言えば、そも「アメリカ生まれの非熟練労働者」なる存在は現象の一途をたどっており、利益を擁護されるべき社会階層としての存在感がすこしづつ弱くなりつつあるらしいことも覗えます。

また、不法移民の数と言うのはまさに経済状況に依存して増減しているのだそうで、メキシコでの給与が10%減少すると(ついこの間まで、メキシコは超インフレの国でした)、アメリカへの不法移民を試みる者は6%増加する、と言う分析があるそうです。逆もまた真なり、であるならば、アメリカで住居費等が高騰することで移民圧力は減ることにもなりますが。

純粋に経済学的な需要・供給バランスから観察される不法移民への対策として、現在アメリカで検討されているのが最6年まで滞在できる「ゲストワーカー」制度による移民枠の設定およびビザの発行だそうで、正規の移民枠が確保されれば誰も法を犯す人は居なくなるだろう、という考え方のようです。もしもそれが需要・供給バランスに基づいたものでないとすると、どうもそこにさまざまな制度的軋轢が生じそうな気配が感じられます。

また、不法移民の存在により彼らの家族に関する医療手当てや教育費としてアメリカ市民が負担している税金がGDPの0.07%だそうですが、不法移民を禁じるために政府が支出しているコストはそれより大きく、ブッシュ政権の2008年予算で0.1%となっており、経済学的に考えればゲストワーカー枠や不法移民対策はないほうが経済的合理性を持つ、ということになるようです。

The Economistのコラムはここで終わっています。さて、この意見をどう思われますか?全面的にメキシコ移民を認めるとすると、アメリカは英語の国であることが怪しくなってくるかもしれません。すでにCNNもスペイン語放送を持っており、スペイン語圏の国で適当なホテルに泊まると英語のテレビが見られない、なんていう状況に遭遇したりします。それによって発生する、いわゆる「メニュー・コスト(メニューの書き換え等に要する社会的経費)」まで考えると、流石に移民対策に関わるコストだけでは結論の出ない議論であることがわかると思うのですが。