新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

ドイツのユダヤ人

1月5日号のBriefingにドイツのユダヤ人社会に関する記事が載っていて、今週の特集記事である移民問題と併せて読むと、個人的に大変興味深い問題が浮かび上がったので一寸書いてみたいと思います。曰く、第二次大戦というよりナチによるホロコーストを経て、激減したドイツのユダヤ人(虐殺や海外逃避などによる)人口が近年激増し、英仏に続いてヨーロッパでは第3位となっている、とのことですが、これはロシアへ逃げたユダヤ人やその子孫が、移民受け入れ手続きの簡素化を機としてドイツに移住してきていることによるとのこと。大戦から60年以上を経て、世代も代わり、風習や言語もドイツ国内で何とか生き延びたユダヤ人たちとは相当違うものになっており、二級ユダヤ人扱いされている、とのこと。古株のユダヤ人が政治的重要ポストを独占し、権力を放さないなど、明らかな「壁」が問題となっているようです。

特集記事で語られる移民についても、移住先の国で社会的な軋轢が問題となる例は枚挙に暇がありません。なにせEUは経済的な便益を優先させる形で移民受け入れ政策を緩和してきているため、ドイツのみならずあちこちでこのような問題が起きているわけです。ただ移民問題と言うと、地元民とガイジンの間の「壁」が注目されがちですが、ドイツのユダヤ人の例に見るように、同じエトランゼ間でもさまざまな要因によって「壁」は出来うるのだということが言えます。困難な問題を更に複雑化させるような話で恐縮ですが、少し前に南米の日系人社会を垣間見る機会があったためか、どうしてもこの点に目が奪われます。個人的に、と言ったのはそういう意味なのですが。

南米に移住した日本人とその子孫について言えば、戦前移住か戦後移住か、または移住事業による入植かそうでないか、あるいは駐在員か日系人か、日本語を話すかそうでないか、等々さまざまな背景の違いがあり、国によってもばらつきはあるものの、決して一枚岩というような話ではない、とのこと。出身都道府県や裕福度の差なども影響するようですが、一部ドイツのユダヤ人に似ているように感じられたのは、概して古株が力を持ち、その源泉は依然として日本政府や関係機関・団体とのパイプの太さに起因する、というような話を聞いたためかと思われます。後から来た人の間には「それじゃあ駄目だ、もっとオープンな社会にしなくては」との強い思いもあるようですが、既得権という「壁」は思うほど簡単な相手ではないようです。

住む場所を変えるということ、それに伴って発生するさまざまな問題、それらを解決することで「移民の完全自由化により世界のGDPは倍増する可能性がある」とThe Economistは力説します。経済的メリットを何より優先させる同誌の議論としては全く正しいのでしょうけれど、地元民と移住者の間だけ何とかすればよい、というような単純なものではなく、課題は更に広範な分野に根深く存在しているな、と感じています。