新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

政治と報道の中間に

1月8日号のBanyanは、引退について言及したと言うダライ・ラマと、チベットの先行きに関する興味深い論評でした。曰く、パンチェン・ラマの継承騒ぎ(チベットが立てた候補と中国が立てた候補が違い、その後チベットが立てた候補が姿を消したこと)や、今一人の活仏カルマパ・ラマを巡る認証争い(インドにも対立候補がいるそうです)など、複雑な継承者問題を抱えるチベット仏教そして亡命者を含むチベット人にとって、やはりダライ・ラマこそが心の拠り所でありましょうし、たとえそれが儀式的な地位からのものに限られるとしても、引退は更なる問題の混迷を引き起こしかねない要素だろうと思います。

逆説的な言い方かもしれませんが、チベットの分離独立が現実問題としてほとんど可能性がない以上(ダライ・ラマも分離独立を指導しているわけではない)、中国こそがダライ・ラマ本人とそのカリスマ性を必要としている状況かと思います。彼がその立場を退くことで、むしろ問題は制御しにくくなり、混乱に拍車がかかるのではないかと思われます。更にその逆説を言えば、制御しにくい深刻な問題があり、混乱を防止するためこそ今以上の締め付けが必要だ、という文脈になる懸念もあり、国際社会として、もしくは人類として、それこそが最も避けるべきシナリオだろうと思うのです。平和主義者であるダライ・ラマを排除しようとする考え方というのはつまるところそう言うものであると、言われても仕方がないかもしれません。