新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

あら、そう、良かったね

6月9日号のBanyanは、日本を襲う産業空洞化の先行きについて、The Economistならではの分析的な論評をしてくれています。
果てしなく続く円高、エネルギー問題、進まない自由貿易交渉、人口減少と高齢化、その他様々な理由で産業競争力が低下している日本ですが、結局のところ経常収支は黒字基調であり、それは長年ため込んだ外貨を投資することによって得られたリターンによるもので、製造業の海外立地が進んでも、出るべきところが出てしまった以上、もう大きな海外移転の波は来ないだろうし、欧米に比較すれば健全な財政とこの黒字のおかげで円はずっと高い、だとすると(海外からモノを買う)民生には良かったんじゃないの、というオハナシ。ヨーロッパから見れば「そう、良かったじゃない。」てな話ですかしら。

隣の芝生は青く見える的な視点そのものですが、確かにモノを買う(消費)立場の民生から見ると、円高は悪いことではない訳で。だとすると?製造業の海外立地と投資リターンの確保、?消費中心の民生設計による国内生活環境の改善、みたいな話が現在の日本にとって最善のチョイス、ということになるんですが、ある意味で実態はまさにこれに近い状況だと思います。2012年の日本は、外に投資をしてそこで稼ぎ、儲けを国に送って円高を維持し、海外から安いモノを買ってそれでハッピーに生きている、そんなビジョンです。

だとすると、やれ「円高対策」だの「ものづくりの日本」だのというキャッチフレーズは、時代遅れな考え方か、または政治的なごまかし・おためごかしの台詞に過ぎないというふうにも見えてきます。多分、TPP反対論者の頭にあるイメージはそんなところだろうと思うのですが、果して海外投資のリターンだけで安定的な経常黒字が維持できるのか、先進技術による製品の高付加価値化が進むとしても、やはり自由貿易の促進による日本オリジナルの「儲け代」確保は必要なのではないかと思っています。結局のところ、「ものづくり」に強みを求めざるを得ないはずの日本の生き方を考える上で、大変示唆的な記事でした。