新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

日本に夢はあるか

9月8日号のUnited Statesは、トップ記事でアメリカ民主党の党大会について取り上げています。クリントン元大統領やミシェル・オバマ大統領夫人の演説など、比較的好感を以て迎えられたものが多かったようで、党大会での議論やその後の世論についての厳しい記述は見当たりません。むしろ、中間所得層以下のアメリカ人にとってフェアな環境を担保することこそアメリカンドリームの実現には必要である、というテーゼを打ち出せたことは、選挙戦略上重要なポイントになったとの見方です。対する共和党は、成功者の権利を担保せよと言っている訳で、金持ち優先と言われても仕方のない考え方ではありますが、かつて意思とネタとチャンスさえあれば3日で大金持ちになれた、というような、典型的アメリカンドリームの輝きを、より強く追い求めているのは共和党の考え方なのかもしれません。多数がモノを決める民主主義の原則に立った時、いわゆる無党派層がいずれのアメリカンドリームを選択するのか、大変興味のあるところです。

今ひとつ興味深かったのは、「現実」を見れば民主党の経済運営が決して有権者の期待に応えるものになっておらず、共和党もブッシュ時代を含めて効果的な政策を持っていないと整理できるところ、民主党も共和党も争点とするのは「夢」だということですね。有権者よ、私たちが提供する夢に投票してくれ。これが両政党の訴えようとしていることの主軸になっているわけですから、それはそれで一定の議論に耐える考え方ではあろうと思われます。いずれの政党も、「夢がこうで、そのために努力しているところだから、少しの間この現実には耐えなくてはならない」というロジックで痛みを正当化するしかないと思われる環境下にあって、その中で指導者を選ぶための基準が「夢」にあるという考え方は、極めて分かりやすくかつ訴求性は高いと思われます。

翻って、日本はどうかというと、遠慮がちなのか本当に能力がないのかは知りませんが、ちょうど同時期に代表者選びをしている民主党も自民党も、夢なんぞをテーマに政策を語る有力者などほとんどいないわけで。政治屋が選挙で如何に生き残るかだけを考えているような民主党と、勝った後の縄張り争いや領土問題など「現実的な課題」にしか目が向かない自民党と。如何に両者の直接対決ではない内輪の代表者選びとはいえ、その後に控える国政選挙を考えれば、もう少し広い視点で議論がなされてしかるべき状況ではないかと思われます。政治的発想の貧困さは、今に始まったことではないのですが、もしも私たちが次の世代に伝えてやれるものがあるとすれば、今後経済面で長期低落の道を歩むであろう日本にとって、追求すべき価値観とは何なのかという議論の土俵を整えることではないかと思うのですが、そんなようなことに時間と労力をかける覚悟を、日本もまたしっかりと持つべきであろうと、アメリカの様子を見ていてそう感じました。