新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

領土と人権

6月22日号のLeadersそしてChinaには、さきごろ中国共産党付属のシンクタンク研究者が語ったと言う、チベット向けの融和的な政策についての論評や、現在中国がチベットで取っている抑圧的な政策の詳細について複数の記事が載っています。

まず、おそらくは党中央の同意があったのだろうとされるシンクタンク研究者の意見は、ダライ・ラマ師を香港やマカオに招待して、そこで長期的な政策についての相談を行ってはどうかというもので、これまでおよそ抑圧的な対応しか見せなかった中国の対チベット政策とはかけ離れたものであることは、確かに注目に値すると思います。流れから言うと、人権問題について米中首脳会談で何らかの意思疎通が図られたことの具体的な表現だったのではないかな、という気がします(The Economistはそのような「読み解き」はしていないのですが)。この変化が領土面で何らの進展を示すものでないことだけは明らかなようです。

その証拠に、チベットが中国の核心的利益である、という主張は全く取り下げておらず、北京でも設置されている細かな監視システムが、ラサにも設置されたのだとか。

それまでの中国はと言えば、「どうせダライ・ラマは早晩死ぬ。そうすれば問題は終わり」というスタンスだったわけですが、それだと人権問題について何らの対応を取らなかった、という歴史的なレッテルを貼られることに等しいということに、どうやら気付いたようですね。

日本からこの変化を見ていると、あたかも中国が領土問題について柔軟な対応を取り始めたかのような誤解をしがちですが、この二つはしっかり区別して認識されるべき要素であろうと思います。特に米欧型社会において人類の普遍的価値とされる人権問題への対応を取ることにより、その他の問題についての主張をしやすくする、というような狙いがあるように見ますが、如何でしょうか。