新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

5年経っても

東京は、オリンピック招致決定の熱気がまだ冷めやらぬ月曜日の朝です。The EconomistもWeb版ではその様子を冷静に伝えてくれています。

さて、9月7日号のLeadersを見てみると、トップはアメリカによるシリアへの武力攻撃についての批判的な記事ですが、二番目はリーマンショックから5年経ってもなかなか安全性を確保できない世界経済に関しての警告的な記事が出ています。

いわゆる信用経済の基本システムは変わっていないので、国際経済そのものを生かすために多額のファイナンスが必要不可欠であることは論を待たないのですが、だれがどれだけ借りているかを冷静に考えると、とても安全なシステムが確立できたとは言えない、という分析はその通りだと思います。それでも5年の間に欧州はギリシャを救い、スペインとイタリアを救おうとし、アメリカは安価なエネルギー供給で経済循環を助け、日本もまたTPPへの参画や二国間EPAの推進による通商基盤の整備に尽力してきました。何より東日本大震災があったにもかかわらず、日本が不況の引き金を引くことはありませんでした。

5年の間、世界はとりあえずやれることをやってきたように思うのですが、他方でそれが安全・安心につながる制度設計やシステムの整備にまでつながったかというと、決してそんなことはないというのが正直なところだと思います。急激に成長した新興国における制度基盤整備の立ち遅れや透明性の欠如など、言い出したらきりがありません。

そう考えると、今から先の国際経済運営に何よりも求められるのは新興国と先進国の間に存在する段差をどれだけ解消できるかということになろうかと思います。具体的な取り組みが例えばTPPなどの多国間交渉に現れるわけで。

そう考えると、日本対TPP(アメリカ)という視点が極めて近視眼的かつ短絡的であることがわかってくると思います。TPPの枠組みにおける日本と東南アジアの関係(たとえば知的財産管理を巡る交渉)、さらには10年後を考えたTPP参加国と中国など非参加国の関係など、長期の全体利益を粘り強くしっかりと議論してゆくことが、大変重要な課題であることを、この記事は間接的に示してくれているように思います。

「7年後、自分はどうなっているのか」:オリンピックが決まって、改めて7年という時間差について考えをめぐらした方もすくなくないのではないかと思いますが、世界経済もまた、5年そして10年という単位で戦略を考えてゆく必要のある分野なのだということを改めて認識させられた記事でした。