新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

覇権、ミルフィーユのように

9月14日号のAsiaには、伝統的にロシアの影響が強かった中央アジア諸国に対して、特にエネルギー開発の面から影響力を強めつつある中国の動きについての論評が出ています。御多聞にもれず、「必ずしも歓迎されるばかりではない中国」というモデルについて匂わせる記述なわけですが。

歴史的に見れば中央アジアへの影響力をもっとも長く、かつ強く及ぼしたのはトルコのはずです。言語的にもトルコ語に近い言葉を話す国が多いと承知しています。逆に言うと、ソ連の時代までロシアはそれほど強い影響力を持っていたわけではないのだろうと思うのですが、中央アジアでは依然としてビジネスで使われる言葉はロシア語ですし、ロシア人はまだたくさん住んでいるので、そういう意味ではロシアの影響が強いという指摘は当たっているのだろうと思います。

その気で見てみると、特に南のほうではイラン(ペルシャ)の影響という要素も文化や言語にはあちこちにあるようで、そう考えると中央アジア諸国は西から、北からそして南からの影響を、さながらミルフィーユ(もしくは広島風お好み焼き?)のように重層的に受けつつその歴史を重ねてきた、と言えるのだろうと思います。

では中国は、中央アジア諸国に対して覇権を求めるのか?と考えると、おそらくその答えは「(当分は)NO」ではないかと思います。中国の国益から考えて、新疆ウィグルの安定化のほうが優先されるとするならば、トルコ系のイスラム国として新疆ウィグルに近い中央アジア諸国を、従えるよりは味方につけておいたほうが良い、と考えられるからです。

事実、国境を接するキルギス共和国とは、過去に国境紛争めいたできごともあって、それがキルギスの体制を揺るがすようなこともあったわけですが、手厚い経済協力以上の関係づくりを中国側が積極的に模索するような動きにはなっていないと思います。

必ずしも進出を歓迎されないのかもしれないが、エネルギー需要の満足と新疆ウィグルの安定化を考えると、しばらくは笑顔の外交を模索するのが中央アジアにおける中国の立ち居振る舞いになるのだろうと思われます。

では日本はどうすればよいのかというと、攻めない中国に対してオフェンシブな戦略(たとえば新疆ウィグル問題をあげつらうとか)は取らないまでも、中央アジアにおける中国の低姿勢を望ましいものとして喧伝するなり、世界平和のビジョンづくりといった観点から、地域のあるべき姿について積極的に意見を発信するといったアクションが取られてしかるべきなのではないかと思います。これまで日本もまた資源外交を軸とした経済協力で、ずいぶんと同地域に対する貢献をしてきていると思うので、そういった情報発信をするだけの資格要件は十分満たしていると思いますが、いかがでしょうか。