新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

香港の憂鬱

10月19日号のFinance and economicsには、知っていそうで知らない人もいると思われる香港ドルの実像と、香港が直面するインフレ圧力についての読み解きが出ています。

香港ドルは、1983年以来今日にいたるまで、米ドルとの為替レートが固定されていまして、言ってみれば姿を変えた米ドルそのものとして流通しています。他方で、かつては米ドルと固定的な為替レートを維持していた人民元は、度重なる切り上げ圧力の下、米ドルとは袂を分かつことになり、2005年に管理変動相場制に移行した後もじりじりと元高になってきています。

通貨ではアメリカと結びついた香港ですが、経済では日増しに中国本土との関係が強くなっているわけで、その結果として為替面で調整機能を持つ人民元がインフレ対策を打ちやすい(元切り上げ)のに対して、香港ドルはアメリカの量的緩和の影響をもろに受け、好調な経済に対して安いカネを供給せざるを得ないという、当局者としては何とも悩ましい状況が続いているのだとか。

一国二制度なんて言っていないで、通貨統合したらどうか?という意見もなくはないのでしょうが、基本的に人民元は非兌換通貨なので、国際通商をその生命線とする香港の通貨が兌換性を制限されるのはむしろ弊害が大きくなるだろうとのこと。であれば香港ドルの交換レートを切り上げれば済むこと、という議論は、シンガポールが通貨切り上げでも不動産バブルを防げなかったように、たちまち通貨政策の限界にぶち当たることが見え見えということで、下手に動くよりもレートの安定性を通貨の魅力として堅持するのが結局は得策という判断になるようです。

ことほど左様に、お手本のない経済運営って難しいということですね。経済好調+カネ余り+?=インフレ回避、という香港の方程式、?に該当するのははたして何なのか。大変興味深いお話です。