新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

デモクラシーへの挑戦、でも誰が?

出張などがあって、ちょっと間が空いてしまいました。

 

ネットでは3月1日号が流れています。Leadersのあとに、大変興味深い長文のエッセイが掲載されています。その内容は、最近どうもうまく行かない民主主義もしくは民主化の流れに関する分析に基づくものなのですが、たとえば中国共産党と周辺の学者が説く、「民主主義よりも社会主義市場経済のほうが優れている」、という意見や、中東を揺るがすアラブの春など「うまく行かない」事例を参照しながら本当に民主主義はダメなのか、という洞察を深めようとするものでした。

中国は、個人の自由がムダを生む民主主義に比べて、社会主義市場経済の方が中央の指示によりよほど合理的な資源配分を行うことが可能で、過去30年間に渡り中国は高度成長を遂げることができた、その速度はこれまでどの民主主義国が経験したものよりも速い、という観察に基づき体制を正当化しています。さらに中国の学者の中には、民主化がうまくゆかない途上国に対して中国は代替モデルを提供できる、それが成功しつつあるのがルワンダ、ドバイ、ベトナムである、という意見まであるようです(ベトナム人は素直に同意しないかもしれませんが)。

地球規模の中長期的な課題として「中国民主化」が最大のテーマだと思っている私からすると、なるほど真っ向反対の読み解きではあるのですが、合理的な資源配分が結果としてもたらした高度成長が、持続可能な政治体制をもたらしていない現実を中国の学者はどう正当化するのでしょうか。特権階級の醸成、富の偏在、汚職の蔓延、周辺諸国とのトラブル等々、どうみても共産党が多くの人に幸せを約束する政治を行っているとは思えないのです(もっとも中国の世論調査によると、8割以上の国民が幸福を感じているのだそうですが)。

ただし、米欧諸国そして我が日本も含めてですが、民主主義を標榜する国々において肝心の民主主義が綻びてきていることもまた、否定しがたい現実として認めなくてはならないことだと思います。しかしながら、もしも民主主義に対する対案が一党支配による社会主義市場経済なのだ、という命題があったとして、積極的にそれに与する議論が起こるとは私には到底思えないのです。

さらにThe Economistは、民主化がうまく機能していない途上国の例について、報道や発言の自由、政治に流れるカネの見える化など民主主義を育てるための条件が整備されない中で、とにかく選挙で多数を取るものが勝ち、勝てば何をしても良いのだと言った誤解が多く見られることに懸念を示しています。

『結局のところ、国民は自分たちのレベルを超える政府を持つことはできない』、という言い古されたコトワザがありますが、タイの混乱やウクライナの緊張をはじめとして、今各国が直面している体制面のゆらぎは、妥当な選択肢が「民主化」しかないところ、その「民主化」には成功マニュアルなど存在していない、というところに負うところが大きいのかな、と思うのです。

キリスト教や資本主義経済においては、外国人でもわかりやすいようにその内容を明示的に提供することで影響力を担保してきた米欧社会ですが、肝心要の民主主義についてそれができていないというのは歴史的に見るとちょっと皮肉な出来事であるように思えます。

チャレンジャーの姿がよく見えない戦いではありますが、民主主義が世界を幸福にするためのプロセスは、まさに戦いと呼ぶべきものだ、ということですかね。