新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

貴賤はここにも

7月18日号のScience and technologyには、人の親として読むと意味深な実験の追跡結果に関する記事が出ています。スタンフォード大学の研究者によると、小さな子供相手にマシュマロを盛ったお皿を見せて、決められた時間食べずに我慢できた子にはご褒美をあげる、と言い聞かせてその経過を見る実験をしたところ、時間まで我慢できずに食べてしまった子は、最後まで我慢できた子に比べて社会的に成功する確率が低いことが観察されたのだそうです(ずいぶんと長い時間を要した実験だったと思います)。この結果については、自己コントロールができるかどうかが社会的成功と関係する要因のひとつであるとの解釈がなされています。

ところが。

ジョージア大学の研究者が最近発表したところによると、社会的階層が高くない被験者は、自己コントロールを求められることによって生じる心身のストレスが、富裕層出身者に比べると高いと言う調査結果が得られたのだそうで、社会的成功を得るための要件を学習するプロセスで、健康によくない刺激を受けてしまうことが分かったということです。

逆に富裕層出身者にとって、自己コントロールはストレスを軽減するための要件になっているそうで、規律ある環境に置かれることがストレスを減らすことが確認された、ということです。彼等にとっては、自己コントロールを求められない場のほうがストレスがたまる、ということですね。

たとえばアメリカ映画一シーンみたいな設定ですが、浮浪者然とした登場人物がラジカセで大音量の音楽を流しながら通りを歩く、その周囲で紳士然とした通行人が眉をひそめる、といった場面があると、浮浪者にとっては快感となる音楽も、紳士にとっては自己コントロールの埒外にある行為ということでストレスになっている、と言った分析が科学的になされたと言うことかと思います。

日本では、出自の貴賤を問うことをタブー視する考え方の方が一般的だと思うのですが、一歩日本の外に出ると、例えばこんなところにも、違いを確認したうえで「ではどうすればよいか」を議論する考え方があることが窺えます。アメリカ流、と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、小泉改革以来指摘されてきた格差社会というコトバと向き合う上で何か示唆的な研究結果であるように思えます。