新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

モーレンベックだけじゃなく

このタイトルを見て、それがベルギーの首都ブリュッセルの一地域の名前であることにピンと来た方は、相当しっかりとニュース報道を見ている方だと思います。モーレンベックとは、住民の半数以上が移民という、言ってみれば「やや危ない」地域の一つなのですが、パリの同時多発テロにかかわった犯人グループのアジトがあったところということで、日本でもその名前が報道された地区です。

The Economist4月2日号のInternationalでは、3つの記事を使ってベルギー同時多発テロとその背景について深堀りする論評を伝えています。

日本のメディアの場合、喉元過ぎれば熱さを忘れるというわけでもないのでしょうが、テロ事件の報道が終われば一部ルポルタージュに取り組むジャーナリスト以外は誰も気にしなくなる地名かもしれませんが、さすがにシツコイThe Economistだけのことはあって、ブリュッセルにあるその他の「危ない」地域~たとえばヴィルヴォオルデ地区など~では、今でも日常的に若者がISへ参加するために姿を消す、というような状況が続いているのだとか。

そういう若者はどういった国から参加しているのか?とIS戦闘員の出身国を分析すると、数的にはイギリス・フランスが多いのですが、人口100万人当たりに直すとベルギーもフランスと変わらない頻度でIS戦闘員がリクルートされているという事実が見えてくるとのこと。さらに事情を複雑にしているのは、比率だけならボスニアコソボからの参加が抜群に多いのですが、人口比のいたずらでドイツ出身者の方が数的には多かったりする、というあたりでしょうか(ドイツ700人に対してコソボ125人)。ISへ参加しようとする若者を元から絶つ、という施策が必ずしも効果的でない現実が見て取れます。

それでもなお、身近な人による説得やISに代わる居場所の提供、宗教的な救いの提供など、個別にIS参加希望者への転向を働きかける施策の必要性は認識されているようですが、その中身がなんとなくオウム真理教対策を連想させるものがあるあたり、人間は世界中どこでも一緒なのかな、と思わされる部分ですかね。

また、哲学的にもISが主張する「イスラムの家」だけでなく他の宗教と折り合いをつける考え方がイスラム教にはしっかりと存在することを、潜在的なIS参加希望者に伝わるように伝えてゆくことの重要性を記事はしっかりと伝えています。

サミットや東京オリンピックに向けて、単に心配するだけでなく一体どのような相手に何を対策とすればよいのかを、そろそろまじめに考えるべき時なのではないかと思うとき、参考になると思わされる記事でした。