新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

嫌なものはイヤ

ネットでは、6月18日号が流れているThe Economistですが、表紙とLeadersのトップ記事、それにBriefingの記事4本を使って、イギリスのEU離脱問題について報じています。

www.economist.com

さすがはイギリスのメディアなので、深刻さが違いますね。ちなみに演説などでよく使われる連帯の大義を示すときの言い方で"United we stand"というのがありますが、記事のタイトルはそれをもじったもので、EU残留を強く主張するThe Economistの立場をあらわしたものだと言えます。

組織経営の考え方に「動機づけ・衛生理論」というのがあって、人はどれだけメリットを与えられても(動機づけ要因)、嫌なモノが存在するとめげてしまう(衛生要因)、というのがあります。どんな立派なレストラン(動機づけ要因)でも、出てきた皿に髪の毛がついていたら(衛生要因)興冷めですよね。この例でもわかるように、衛生要因は動機づけ要因よりも強く働くことがあります。

The Economistの伝えるところを見聞きしただけの範囲ですが、残留支持派は経済を中心として動機づけ要因ばかりを唱えているような気がします。対する離脱支持派は移民問題など、社会におけるあきらかな衛生要因をそのポイントにしているようですね。多くのメディアや大国の指導者が残留を呼びかける中、第一者であるイギリス国民が世論調査で離脱支持に傾いているあたりにも、衛生要因が強く働いているのではないかと思うのですが。

The Economistが提示する議論の中には、EUメンバーではないものの貿易面で恩恵を被っているノルウェーのように、EUに対してお金をたくさん払い、EUの言うことは丸呑みにして、不利な立場でも良いから好条件で貿易をさせてもらう、その代り移民を入れないというやり方(衛生要因をカネで買う)もあるのではという意見があります。第三者的には悪くない妥協案のようにも見えるのですが、イギリスでは全く人気のない議論だそうです。離脱か残留か、という議論になっているときには小手先の技に見えるのでしょうか。

他方でフランスの保守勢力あたりには、フランスも離脱を、という意見がでているようで(ブレクジットにちなんでフレクジット、というそうです)。こなた、イギリスとの貿易で最も恩恵を受けているドイツからすれば、イギリスの言うことをある程度聞いても残留してほしい、という態度だそうでして、仮に条件闘争になればEU全体の動きにも影響がでるのかな、と感じられる部分もあるようです。

選挙において嫌なものはイヤ、というシンプルな意思が意外と強いものになる、最終的には合理的判断をすら飲み込んでしまうという事例は、洋の東西を問わず目撃されてきたものだろうと思います。英国のEU離脱がもっと大きな流れの変局点になるかもしれないことに、ここしばらく注意を払いたいと思います。