新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

メッキが剝げるとき

3月25日号のThe EconomistはLeadersで多国間外交に消極的な米トランプ政権の姿勢に対する危機感を伝えていますが、同時にThe Economist電子版の記事では先ごろ報じられた健康保険制度改革(いわゆるオバマケアに対する対案)の頓挫について、先行きを不安視する論評が出ています。

多国間外交におけるアメリカの「出し渋り」は今に始まったことではなく、そもそもレーガン政権の時代から何かというと「支払わないアメリカ」というパターンは繰り返されてきていました。ブッシュ政権は、少なくない多国間機関からアメリカを脱退させましたし、オバマ時代を通じても、約束した拠出金を最後まで払わない、というスタンスはあまり変わっていなかったのではないかと思います。

温暖化対策や多国間の自由貿易協定に懐疑的なトランプ氏の姿勢は、この動きを強めると言うことでしょう。パリ協定の停滞が更なる温暖化ガスの排出につながることは分かり切った話だと思うのですが、米国経済を優先する自身の政策とは相容れないという判断に揺らぎはないようです。

この点について、The Economistが懸念する「対抗勢力としての中国の台頭」について、確かに中国は、たとえばパリ協定をアメリカ無しでリードして、その実現を果たすだけのポテンシャルがあるのは事実だろうと思います。でも果たして、中国にそれができるのか?他国が受入れ、中国のホストぶりを認めるような提案、地球全体のことをケアするような政策が果たして出てくるのか?

私はここが分水嶺だと思っています。政策の基礎となる哲学の部分で、普遍性があり他国にとって受容しやすい要素をあまり多く持っていない中国(儒教+東洋+共産主義)からの提案が、南北アメリカ、欧州、西アジアそしてアフリカに受け入れられるものになるのか?おそらくインフラ的な部分(政治体制や経済の枠組み)でリーダーシップを取ることは難しいと思うのですが、付加的な要素(気候変動対策や地域の貿易自由化など)ではまだ活躍の余地はあるのだろうと。だとした場合、中国政府にとっては「アメリカ抜きの世界貢献」を訴求するための恰好の機会として気候変動対策に取り組むモチベーションが生まれるのではないかと思われるのですが。

そのような状況にあって、健康保険問題で躓いたトランプ政権が次に直面するのは税制問題であるとThe Economistは説きます。ここで2連敗するようだと、ただでさえ低い米国内での支持率や期待値もぐっと下がる流れになるのではないでしょうか。そこで中国に(たとえば温暖化対策について)出し抜かれるようだと、世界がアメリカを見る目は明らかに変わってゆくのではないかと思います。