新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

食事と政治の距離

12月9日号はSpecial Reportとして、フェアトレードなど食に関係する消費者行動について鋭い論評を載せています。

曰く、有機栽培の野菜は化学肥料栽培の野菜に比べて単位面積あたりの収量が落ちるため、より多くの耕地を必要としその分環境を破壊する惧れがある。またフェアトレードによる補助金は、非対象者を一層貧困に追い込むか、または補助金狙いの新規参入者を助長するだけで、供給増により結局市況そのものが下がるため、対象者の自立と貧困解消にはつながらない。さらに地産池消と言われる地元生産は、寒冷地の温室栽培等、高コスト・高エネルギー消費型の農業を振興することとなり、海外からの輸入に比べ不合理である。といったような調子です。基本的に食物供給に関係する政策は必ずトレードオフを伴い、良い面の反対側にかならずマイナスの面が出る、と分析しています。

従って、食事につながる買物で政治的意思を明らかにしようとするよりも、選挙に投票に行って自らの意思を表明するほうがよっぽど変化をもたらしてくれるのです、と締めくくってあります。

古典的な経済学の原則論に立ち返って言えば、なるほど比較優位の分業はうなずけるところもないわけではないですが、翻って「欲しいものを買えるだけ買う」という自由主義市場経済の原則から言えば、たとえエネルギー消費が高くても、耕地の開拓が難しくても、あまり関係なく有機栽培やフェアトレード商品は売れてしまうでしょうね(当然その逆もあり、なのだが)。The Economistが肩入れする自由主義市場経済には、そのような危うさが内在しているのだということに、もう少し意識を向ける必要があるかもしれません。

この記事に登場したRainforest Allianceという団体とは、今年仕事を通じて間接的に接触がありました。単なるフェアトレードではなく、栽培の技術指導から品質検査、さらにはブランド提供による選択的マーケティングまで、一貫した対応が高く評価されているNGOですが、流石のThe Economistでも、彼らの対応ぶりには真正面からの批判ができなかったようで、好い事例として紹介されておりました。