新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

バグダッドか、それとも?

1月13日号はLeadersのトップで「バグダッドか、破裂か」と題してアメリカの対イラク政策に関する論評を載せ、Briefingで「大統領の最後の一球」と題してその詳報を載せています。

ここで注目されるのは、Leadersの副題で、「アメリカおよび同盟国はイラクで失敗した。ジョージ・ブッシュが更なる失敗の拡大を阻止しようとするのは正しい」と、ブッシュ大統領の増派案を肯定しつつアメリカの失敗を強く打ち出したことです。これまでもベーカー&ハミルトン報告書について論評したときのように「アメリカは失敗した」的な文脈はある程度前面に出ていましたが、断定形で、しかもイラク介入を強く支持してきたThe Economistが思い切って失敗を認めた点には、事実の重さとその事実を認めることを何より重んじるジャーナリズムの矜持が伺えます。これも「イラク介入支持ありき」、ではなく、「現実社会において自由貿易促進のため、何が最善の選択か」という「ぶれない軸」を持っている同誌ならではのことだと思います。ジャーナリズムの矜持を声高に叫ぶメディアは数あると思いますが、実際それらがどれだけぶれないかというと・・・すみません、議論を修正します。もとい。

Leadersの記事は、2万人を超えるとされるブッシュ大統領の増派計画に関して「The Economistは、これを支持する」との結論を明確にしています。失敗を認めながら増派する?それはつまり近隣諸国の介入なしにイラク問題を解決し、安定化を実現するための資源がアメリカ軍にこそある、という点に帰結します。

Briefingのほうではより明確に、バグダッド市内の地図(ニューヨークタイムズからの孫引きらしいですが、私は初めて見ました。宗派対立がモザイクのように入り組んだ分布となっており、問題の難しさを象徴しているようです)を参照しながら「人口比でコソボ問題の際NATO軍が派遣した兵力は、人口千人あたり20人から25人程度であった。これに準じるとイラクでは53から67万人規模の派兵が必要となるが、今回の増派計画を入れてもアメリカおよび同盟国は15万人を擁するにすぎず、イラク国軍を入れても47万人と、まったく不十分な人員しか持たない」と現状に警鐘を鳴らしています。

しかしながら昨年、ワタダ陸軍中尉が派遣命令を拒否したことに象徴されるように厭戦感はもはや無視できない水準に来ていることも確かです。2008年大統領選挙への影響は、同誌の結論を読むまでもなく「ブッシュ大統領がどれだけ増派するとも、アメリカ軍はそう長くは駐留できないだろう。」というほど現政権に不利な方向へと働かざるを得ないようです。

佐々淳行さんの書く危機管理の考え方に即して言えば、「戦力の逐次投入」は失敗への道だそうで、むしろ圧倒的兵力で短期決戦をすること、こそが勝利の鍵だそうです。ラムズフェルドがイラク侵攻時に描いた戦略も同様ではなかったかと思いますが、それは「軍事的制圧」を勝利とするものであり、「イラク安定化」を勝利とするプランではなかったわけで、では「イラク安定化」のための圧倒的兵力投入はいつ、だれが、どのような形で行いうるのか。

同誌が言うように、資源を持つアメリカ軍に期待するもの一つの選択肢かもしれません。でも、現地で圧倒的な存在はといえばやはりイラク国民をおいて他にないのでは、と思います。その彼らが安全を確保できるようにするための方策は?さすがのThe Economistも、具体策の提案までの力はない、ということのように読めました。