新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

フランスの将来

The Economist3月4日号のLeadersトップは、日本でも伝えられているフランス大統領選挙の帰趨についての論評記事となっています。

オランド大統領やサルコジ前大統領など、既存の政治家たちがいかに支持を失っていったか、というくだりを説明している部分を除けば、記事の中身そのものは日本で伝えられているものと大差ないのですが、端々に自由貿易の庇護を志向するThe Economistらしき言葉遣いが見られます。曰く、極右政党といわれるルペン候補のNational Frontが勝てば、フランスは「貧しく、内向きに、そして厄介になるだろう」とのこと。

確かに、移民が増え、普通の人のミニスカートを誹謗するようなテロリストも跋扈するようになることを、フランスの大衆は望んではいないと思うのですが、同時に経済が停滞し、若者の失業が増えてゆくことを歓迎するかと言われれば、最後は経済が優先されるのではないかという気がします。

でもだからと言って、対抗馬と目されているマクロン候補の勝利が確定しているのかといえばそうではないわけで、どちらに転んでもフランスにとって難しい時代がやってくるのは間違いなさそうです。

それに比べると、日本の場合は今のところ極右が台頭する土壌になっていない分だけまだ恵まれている、というふうに言えると思うのですが(だからこそ、経済の部分で何とかすることが求められているわけで)。ナチスは選挙で選ばれた、という歴史を忘れないようにしたいと思います。

海底資源開発について

The Economist2月25日号のScience and technlogyには、注目される海底資源開発について興味深い記事が出ています。海底で確認されているニッケルや銅、コバルトなどの資源を採掘する事業に、カナダやアメリカの企業が参入しつつあるそうなのですが、その中に三菱重工の名前も出ていて、いよいよ本格的に海底を対象とした鉱山開発の時代が訪れることを予感させます。写真で紹介されている採掘マシンはSF小説に出てくる機械をほうふつとさせますが、同時に実機の持つ迫力を十分に感じさせるものです。

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記事によると、海底火山を取り巻く鉱床のまわりには微生物が暮らす環境があり、採掘によってこれらが影響を受けるのではないかという懸念もあるようですが、海底火山の爆発によっても一時的に阻害されるこれらの環境が復元されるまでさほどの時間を要していないことを考えると、影響は軽微なのかもしれない、というのが記事の見方なのですが、はたして。

もう一つのアメリカ国境で起きていること

おそらくはトランプ大統領当選以降ではないかと思うのですが、最近The Economistの記事ラインナップを見るにつけ、欧米ローカルの話が多くなったなあと言う気がしています。それだけ目線が足元に落ちている、ということなのかもしれませんが。

前置きが長くなりました。今日注目したのは、アメリカとカナダの国境で起きているという、別の不法移民問題の話です。不法移民と言えばメキシコからアメリカへ、に限られた話かと思っていたのですが、このところアメリカからカナダを目指す動きが出てきていて、特に7か国の出身者に入国制限を課す大統領令が出たころから、数はまだ少ないもののアメリカを脱出してカナダへ向かう例が増えているのだそうで。

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確かに、カナダの首相はくだんの大統領令に対して「カナダは移民を歓迎する」みたいなメッセージを発して有名になりましたが、世論調査によるとカナダの国民は移民によって経済が良くなっているという意見を持つ半面で、難民は信用できない、という意見も5割に達しているという複雑な面も持ち合わせているようです(「移民」と「難民」の微妙な違いにご注意ください)。

目線が足元に落ちると、大局観を見失うリスクが高まるのは自明です。メディアとして堅持すべきそのあたりの責任については、私なんかがあれこれ言わずともThe Economistなら当然分かっていてくれるもの、と信じますけど。

 

なんでそうなるの、もしくは不条理が掉さす場面とは

The Economist2月25日号のAsiaには、それぞれ異なる理由から政府によって少なからぬ鉱山が閉山に追い込まれているインドネシアとフィリピンの事情についての記事が出ています。それぞれ日本のODAにとっても古くて馴染みのある国なのですが、21世紀の世の中でどうしてそういう不条理がまかり通るのか、記事を基に考えてみたいと思います。

両国とも経済における鉱業の位置づけは決して低くなく、例えばフィリピンの鉱業輸出は全輸出の4%を占め、20万人の雇用を生み出しているのだそうですが、にもかかわらず環境・天然資源省の大臣が(元環境NGOの活動家)、環境破壊を理由に国内に41か所ある鉱山のうち、23か所を閉山に、5か所を無期操業停止にすることを決めた、のだそうです。

またインドネシアでは、低付加価値の鉱業資源が国外に流出している状況を改善し、国内で付加価値を高めるためという名目で3年前に未精製の鉱業資源の輸出を禁じたところ、ボーキサイトの輸出は2013年に5千6百万トンだったものが2015年には百万トンまで落ち込んだのだとか。で、インドネシアが自力でこれらを精製できるかというと、国内の精製能力は年間3百万トンなのだそうで。

短期的に見れば、不条理の塊みたいな話なわけですが、日本で同じようなことが起きるかと言われれば、おそらくかなり起きにくいのだろう、という肌感はあるわけですね(ゆえにこれらの記事が目に留まる)。でも、どうしてそうなのか、これらの国と日本の違いは何なのか、ちょっと立ち止まって考えてみると実はよくわからなくなってくるところがあります。

政府がものを決めて動かすという部分については、いずれの事例も責任者がそれなりの理由を持って決めたことを実施した、ということだと思うのですが、それが明らかにマクロ経済の健全な成長を阻害するような形で行われた、というのがおそらく日本とは違うのだろうと思います。マクロ経済は官僚の畑ですが、これらの国で官僚が優秀でない、あるいは日本のODAから学んでいないか、というと「それはないだろう」と言いたくなるくらい日本または国際社会からの支援を受けてきている歴史があります。

どうも、記事がとらえきれていない問題の真相があるのではないだろうか、というのが私の見立てなのですが、たとえば企業の立ち居振る舞いはどうだったのか、というと。

企業側が果たすべき責任としての環境保護や付加価値増大への努力は、日本であれば相当強いベクトルが働いて、実現しないわけには行かないくらいの圧力となって企業に降りかかっていたであろうと思う反面で、フィリピンやインドネシアの鉱山は誰がどんな立場でやっていて、それらが環境やマクロ経済に資するような動きをしていたのか、というあたりが記事では書かれていないわけですね。

いずれの国も、経済の部分では華僑・華人の力が強い国ですし、この業界は世界的に言えば鉱物メジャーが幅を利かせているという現実もあるわけで、そのあたりが必ずしも政府との互恵関係を上手くマネージできていなかったのではないか?という仮説が浮かび上がってきます。

The Economist自由主義経済礼賛のメディアなので、目線はどうしても多国籍企業とそれを支援するアングロサクソン型の市場万能主義みたいなところで議論が流れてしまいがちなところがあります。だからと言ってものごとの一面しか見ないスタンスに慣れていると、何か重要なものを見落としてしまう危険性がある、ということをこの記事は教えてくれているのかもしれません。

再生可能エネルギーについてのお話

再生可能エネルギー不都合な真実

 2月25日号のThe Economistはそのトップ記事で、再生可能エネルギーがもたらす電力事業の、あまり明るくない将来(?)について伝えています。ほぼ間違いない話で言えば、今後とも再生可能エネルギーの活用は進むと思われるのですが、もしかしたらそれは環境的にも財務的にも中途半端なメリットしか提供しないのではないか、というのが記事の趣旨です。

www.economist.com

大規模集約型の化石燃料あるいは原子力による発電システムと異なり、分散した場所で建設される再生可能エネルギー(特に太陽光と風力)を使うためには、送電のための設備投資が必要となるという側面があります。

では投資家が喜んで再生可能エネルギーに投資するかというと、以下のような問題がその障害になるのではないか、ということなのですがそれは①環境問題に関する補助金のおかげで発電能力が増えすぎてしまうこと、②太陽光も風力も、自然現象によって発電しない時間があるため、その隙間を埋めるために補完的な電源が必要になること(結局化石燃料を使う場合が多い)、③太陽光と風力は原料調達コストがほぼゼロのため、価格も安く収益性が低いこと、などによるとの分析です。

①と③だけで済むなら、「安い再生可能エネルギー」を実現してくれるのかもしれませんが、安いということは投資のリターンが少ないということとほぼ同値でもあるわけです。そこに②のような要素が乗っかるとすると、必ずしも安いばかりとは言えなくなるわけで、全体システムとしては結局複雑なモノになる点をどう調整するのか、ということになりますね。

記事では、補完電源と再生可能電源の共存について、最近日本でも注目されているスマートエネルギーシステム(コンピューターによる需要予測や給電調整)によって解決の道が見えてきているのは朗報としながらも、旧態依然たる電力価格の体系がスマートエネルギーシステムの普及を阻むことへの警戒感をあらわにしています。

価格調整システムがしっかり出来上がるのであれば、あとは料金徴収方法などの問題なのではないかと思うのですが、長年にわたって独占事業的なやり方に慣れている電力業界が、多様化する料金徴収システムに慣れるには時間がかかる、ということですかね。日本でも、鳴り物入りで始まった電力小売り自由化ですが、ケータイのような爆発的なブームになっているという話は聞きませんし。

再生可能エネルギー不都合な真実

 2月25日号のThe Economistはそのトップ記事で、再生可能エネルギーがもたらす電力事業の、あまり明るくない将来(?)について伝えています。ほぼ間違いない話で言えば、今後とも再生可能エネルギーの活用は進むと思われるのですが、もしかしたらそれは環境的にも財務的にも中途半端なメリットしか提供しないのではないか、というのが記事の趣旨です。

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大規模集約型の化石燃料あるいは原子力による発電システムと異なり、分散した場所で建設される再生可能エネルギー(特に太陽光と風力)を使うためには、送電のための設備投資が必要となるという側面があります。

では投資家が喜んで再生可能エネルギーに投資するかというと、以下のような問題がその障害になるのではないか、ということなのですがそれは①環境問題に関する補助金のおかげで発電能力が増えすぎてしまうこと、②太陽光も風力も、自然現象によって発電しない時間があるため、その隙間を埋めるために補完的な電源が必要になること(結局化石燃料を使う場合が多い)、③太陽光と風力は原料調達コストがほぼゼロのため、価格も安く収益性が低いこと、などによるとの分析です。

①と③だけで済むなら、「安い再生可能エネルギー」を実現してくれるのかもしれませんが、安いということは投資のリターンが少ないということとほぼ同値でもあるわけです。そこに②のような要素が乗っかるとすると、必ずしも安いばかりとは言えなくなるわけで、全体システムとしては結局複雑なモノになる点をどう調整するのか、ということになりますね。

記事では、補完電源と再生可能電源の共存について、最近日本でも注目されているスマートエネルギーシステム(コンピューターによる需要予測や給電調整)によって解決の道が見えてきているのは朗報としながらも、旧態依然たる電力価格の体系がスマートエネルギーシステムの普及を阻むことへの警戒感をあらわにしています。

価格調整システムがしっかり出来上がるのであれば、あとは料金徴収方法などの問題なのではないかと思うのですが、長年にわたって独占事業的なやり方に慣れている電力業界が、多様化する料金徴収システムに慣れるには時間がかかる、ということですかね。日本でも、鳴り物入りで始まった電力小売り自由化ですが、ケータイのような爆発的なブームになっているという話は聞きませんし。

海の底の不気味

The Econnomist誌は2月11日号のScience and technologyで、イギリスの科学者チームによって行われたマリアナ海溝の汚染調査について報じています。日本でも新聞などで小さな記事が出ていたので、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

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最深部は海抜-10,000メートルを超える深海部がどうなっているのか、実際に無人探査船を使って採取したサンプルからは、中国東北部を流れる遼河~瀋陽などの大都市や石油化学工業などで環境問題が発生している場所もあって、日本のODAが対策に使われたりしているようですが~の5から10倍の濃度でポリ塩化ビフェニール(PCB)やポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)が検出されたのだそうです。

これらの、いわゆる「残留性有機汚染物質」は、自然界には存在せず、工業的な利用のために人間が化学的に創り出した物質です。特にPCBの毒性は広く知られており、日本でも厳重な管理の下で相当のコストをかけて処理・廃棄事業が進められています。

太陽の光も届かず、熱水も湧かないとされる超深海で、どうしてそんな汚染物質が検出されたのか。地球科学の面ではロマンを感じる要素もなくはないと思いますが、むしろ不気味さが先に立つニュースですね。