新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

ひらめきはハンバーガーの味とともに

4月7日号のObituaryはMRIの発明者でノーベル医学賞を受賞したポール・ローテルバー氏の逝去を伝えています。彼のジョークによると、「近代科学史は論文採用の歴史」だそうで、事実MRIの原理を示した論文が権威ある科学雑誌に黙殺されたことで、彼の考えが世の中に認められるのがずいぶんと遅くなったようです。それでも体を切らずに体内の詳細な写真を写せる技術は革命的で、2003年のノーベル医学賞共同受賞に結実したわけですが(それからわずか4年で亡くなったわけですね)。

彼のもともとの専門は細胞に含まれる水素原子の影が含水率の変化によって変化する、つまりそれが病気に罹患するときの症状なわけですが、ことのあいまいさに関する研究だったそうです。子供時代、学生時代から兵役時代を通じてかなり自由に科学を研究する時間を与えられたそうですが、彼の才能を見抜いた教育者の先見の明にも脱帽、ですね。ピッツバーグのレストランでハンバーガーを二かじりする間にペーパーナプキンにしたためられたアイディアがMRIの基礎理論になったのだそうで。これが科学雑誌がボツにした論文の根幹であり、ノーベル賞の受賞理由となった考えでもあるわけですが。

その後、放射線と磁力を組み合わせた造影技術は放射線被爆を恐れた患者の誤解などもあり、かなり苦難の道をたどります。長年の技術革新の結果、彼が死ぬ直前には世界で22000台を超えるMRIが使われており、一年間に6千万枚を超える写真が撮られているという普及ぶりでした。今後MRIは更に改良され、生命の不思議をあいまいでない形で明らかにしてくれる、という彼の予言はそう遠くない将来に具現化されるのではないでしょうか。合掌。