新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

大リーグの中国進出

2月13日号のBusinessでは、トヨタ問題を「溝に落ちた牛を引き上げる」(難儀なことを表す慣用句)と評する記事が目立ちますが、違った意味で目を引くのは中国進出を本格化させるアメリカ大リーグ(MLB)についての記事でした。松井秀喜のような日本や台湾出身の選手たちが活躍していること(注:韓国もですよね)と中国の人口を重ね合わせると、バスケットボールの姚明のように才能ある選手がまだたくさん眠っているはず、という考えはあながち間違ってはいないと思います。

しかし、しかしですよ。この考えには日本や韓国、台湾で野球がどのように広がり、人気を博してきたのかについてなどの考察が決定的に欠けているような気がするのです。特に日本では、よく知られているように野球を広めたのは正岡子規をはじめとする日本人であり、かならずしもアメリカまたはアメリカ人が何らかの目的を持って広めたものではありませんでした。言ってみればモンロー主義を具現化したような話なのですが、アメリカ人にとってあくまで自らのスポーツでしかなかったがゆえに今に至るまで大リーグの優勝決定戦がワールドシリーズなどと呼ばれ(考えようによっては厚顔無恥な名前です)、また日本人も「勝手に」(軟式野球・準硬式野球)競技を発達させる自由を手にしていたわけですね。MLBにとっては、才能の発掘や教育などの手間は一切かからなかったはずです。

その意味ではMLBが中国を「市場とみなし」、「戦略的に」進出しようとすることとは、かなり話が違うような気がします。中国は北京オリンピックの後で、野球グランドを壊してしまったのだそうですが、その話を読んで、MLBも戦略的対応を進めるにはちょっと好機を逸したんじゃないかな、と感じました。中国の躍進で注目されているテニスは、各国の若手を個人として育て上げるシステムやノウハウがすでに定着しています(それに乗れた錦織圭はそこそこのレベルまで上がれた)し、中国女子選手の台頭はテニス界で昨今のニュースとなっています。MLBは、その意味でほぼ手付かずのフロンティアである中国に野球を根付かせるための方法論を有しているのか?経営的な視点から言っても興味深い事例だと思います。