新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

ノマド、だった人たちの現実

9月18日号の、どうしてだかEuropeではなくInternationalに、フランス政府による実質的排除を受けたことなどがきっかけとなり、注目されだしたロマ(もしくはジプシー)の人々についての記事が2本ありました。

一つは問題の現状について。
欧州全域に広く分散するかつての放浪者たちが比較的うまく受け入れられているスペインやマケドニアと、依然として社会問題であるブルガリア、ルーマニア、チェコ、ハンガリースロバキアなど旧共産圏諸国との温度差に加えて、フランスで発生したような社会的排除が今においても続いていること。

求人広告への応募は、面接で肌の色を見たとたんに断られるという、この手の話では世界的に普遍的な「差別」の構図は問題のむつかしさを象徴しています。

The Economistは、イギリスがジプシー問題からは比較的フリーだったせいなのか、次世代の教育にその解決を見出すべしという、冷静かつ第三者的な意見です。

いま一つは呼称に関する話。
ロマという呼び名、もしくはロマニー人という言い方は、ルーマニア人と英語のつづりがとても近く、混乱の元以外の何物でもないのですが、もともとは彼らの言葉で「人、男」を意味するロムという単語の複数形からきているそうです。ジプシーは差別用語である、という考え方がある一方で、自ら誇りを持ってジプシーと呼ぶ一団もあるとかで、何とも悩ましい。さらにさらに、日本に暮らしているとなかなかそこまで目がゆかないのですが、ヨーロッパに存在する漂泊の民はなにも彼らだけではないそうで、ほかにもロム族、ドム族、リュリ族、ボシャ族、ゾット族などの、「ジプシーではないノマド」がいるのだそうです。この話は初耳で、考えてみればヨーロッパ大陸はあれだけ大きくて入り組んでいて、民族の移動を繰り返した土地なので、ないと考えるほうが非現実的とは思うのですが。

ロマの人々は、全ヨーロッパで七百万から千二百万人いるそうです。親は子供が差別されないよう、暮らしぶりを現地風に変えたり、自分たちの言葉を教えないようにしたりした結果、必ずしもロマ人同士で意思疎通ができなかったりする状況なのだとか。

差別的ではなく、紛らわしくもなく、明確に彼らのことを表現できる呼称が必要、というのがThe Economistの問いかけですが、あまりにも括りが複雑で、一筋縄では行きそうにありませんね。サイエンスの力でも借りて、学問的にアプローチするか、もしくは各国の言葉でもっともフィットするものを足で集めてまとめるという社会的アプローチを取るか。どっちにしても、骨の折れる仕事になりそうです。