新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

先を見る、ということ

ネットで流れているThe Economist5月20日号のLeadersは、第三次中東戦争50周年とトランプ大統領のイスラエル訪問について、アメリカの特別検察官について、ランサムウェア・ワナクライについて、フェンタニルという麻薬について、マレーシアのブミプトラ政策見直しについて、となっています。

一見、日本のメディアではスルーされている話題が多いように見えると思います。

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このうち、特別検察官の任命については日本のメディアでも取り上げられていますが、たとえば今週G7の前にイスラエルを訪問するトランプ大統領の動きと中東問題についての報道は、あったとしてもごく小さなものではないかと思います。ましてやマレーシアの人種政策について論評するような報道がトップに来ることは少ないのではないでしょうか(逆に、イランの大統領選挙はどうしてだか、電子版を含めThe Economistにスルーされていますが)。

ちょうど今日、JETROが出している「通商弘報」にマレーシアの記事が出ていたのですが、それはTPPよりRCEPを重視したいという貿易政策に関する当局者の話を伝えるもので、国のあり方や国際社会で今のマレーシアがおかれた位置を俯瞰的に見るような論評では全くありませんでした。

今を見る、と言うスタンスを否定する気はありませんが、先を見る、という視点で考えたとき、複数のメディアに目配りすることの重要性を考えさせられます。あとはそれらをしっかり読める時間があるかどうか、ですけど。

AIは、ゲームで育つ?

5月13日号のScience and technologiesには、自動運転システムのAIに多様な赤信号のパターンを教えるのに、「Grand Theft Auto V」というベストセラーのゲームソフト(に出てくる様々な赤信号)を使った大学の研究者の話が出てきます。

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AIがゲームソフトで学習する?なんだか映画「マトリックス」の世界ですね。そのうち「こうしたほうが面白い」とか言って、ゲームソフトを書き換えてしまうAIが登場したりして。いや冗談ではなく。

 

成長こそ、何にも増して

5月13日号のFinance and economicsに出ている小さな記事ですが、中国・荊州市の市長であるLi Dakang氏の例について。何より経済成長、それも環境汚染を伴わない現代的な意味での成長を志向しているのだそうですが、他方で多少の汚職には目をつぶるというやり方が中央政府の目指す汚職撲滅とはややささくれを起こしている(?)模様です。

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それでも、汚職批判を恐れて何もしない幹部より、Li市長のやり方は強い支持を集めているのだとか。結局のところ、カネこそすべてというあたりに、かの国のホンネが見え隠れするのだという気がします。

見えないトランポノミクス

ようやく落ち着いたので、しばらくぶりの投稿です。5月13日号のThe Economistの表紙はアメリカのトランプ大統領が掲げる(はずの)経済政策について正面から疑問を投げかける写真を使っています。

記事も、LeadersそしてBriefingを使って「トランポノミクス」が首尾一貫しない政策となるであろうことを批判しています。

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そもそもThe Economist自由貿易主義を旗幟鮮明にしたメディアなので、原則論のところでトランプ氏とは相容れない関係なのですが、いささか批判が空振りに見えるのはそもそも「トランポノミクス」とは何なのか、メディアも読者もまだよく分かっていないからではないかと思います。確かに「製造業を重視する」と言ってみたりする言葉の端々だったり、TPPを過去のものとして脱退を決めるなど現象的な要素としては保護主義的な色彩を帯びた匂いが漂うわけですが、今からアメリカが製造業でその経済を盛り返すというシナリオはとても考えにくい状況にあることなど、妥当性の面で疑義を呈されるであろうことは明らかだろうと思います。

そのせいなのか、トランポノミクスが果たしてどんなものなのか、今一つ明快な説明を受けられないまま今に至っているというのが実感だと思います。見えないものを批判することほど難しいことはないと思うのですが、それでもそうしないことには読者が納得しないThe Economistも、なんだかご苦労様、という感じですかね。

トランプ政権の移民政策について、具体的な話

The Economist電子版は、米トランプ政権の新しい大統領令により、専門的な職能を持つ外国人技術者へのビザ(H1-B)発給要件を改めることについて、洞察の利いた記事を載せています。

記事によると、H1-Bビザはコンピュータサイエンスなどを中心に高度な技術者を呼び寄せることにある程度成功していたようですが、①年間85,000人という「枠」があり、ビザ発給はくじ引きだったこと、②ビザでは最低賃金が年間6万ドルと決められていたところ、取得者の多くがインドIT企業に勤める技術者で、最低賃金スレスレの給料しかもらっていなかったことが指摘されています。この制度で最も裨益したのは、年6万ドルで世界の優秀なIT技術者を囲い込んだインドのIT企業だった、というのが記事の読み解きです。

制度改革後は、審査が厳しくなることに加えてくじ引きから貢献可能性へと審査基準が変更されると記事は伝えています。アメリカ企業にも、インスタグラムなどH1-Bで裨益した企業はあるようなのですが、発給がくじ引きによるものだとすると、たくさん応募した会社がたくさん裨益するという構造は残ってしまうと思われることから、貢献可能性を審査する方式に改められるとすると、やはりアメリカ企業の利益になる応募者が優先的にビザを取得できるようになるのでしょうね。

日本人的な感覚で言えば、今までくじ引きだったことがむしろ驚きに思えますが、年収6万ドルで今のアメリカに住むというのも、ものすごく楽というわけではないと思います。ダブルインカムになればだいぶ話は違うのかな?

将来的に、移民による経済の下支えが不可避かもしれない日本にとっても、参考になる事例ではないかと思います。

 

量的緩和の終焉、の伝え方について

The Economist4月17日付電子版の解説記事には、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB=Fedと呼ばれる)が、利上げに伴って保有する長期債の売却を視野に入れていることを、「バランスシートの縮小を図っている」という言い方で伝えています。所謂量的緩和がその終息段階に入りつつあるということで、日本では「利上げの影響」という言い方で報道されている例が多いと思います。

世の中に存在している「おカネ」は、富と交換できるという意味で言ってみれば「債務」なのですが、それは国の財務状態をバランスシートで表そうとすると右側(借金などを載せる場所)に載せられるべき項目になります。それを縮小しようとする場合、当然ですが左側(財産などを載せる場所)にある項目を売却するなどしてこちらも縮小し、「バランス」を保つことが求められるわけです。保有する長期債などは、普通でもそうですが財産にあたるので、これを売却することで借金にあたる「おカネ」の量を減らすということですね。

(ちなみに、当たり前ですが現金は「財産」です。ということはその発行元が同じだけの「債務」を負っている、ということになりますよね。)

事務系のサラリーマンや会社経営に詳しい方などには、このような表現の方がわかりやすいのではないかと思うのですが、大手の新聞なども含めて日本のメディアはどうしてだか国の財政についてこのような言葉遣いで報道することがありません。学者が使うようなマクロ経済学の用語だけで記事を書くので、「今何が起こっていてそれは何のためなのか」がちょっとわかりにくかったりします。的確であることよりも、正統であることに縛られている、というようなイメージですかね。何とかならないものですかね、ホントに。

トランプ外交とは?

4月15日号のUnited Statesには、シリアへ巡航ミサイルを撃ち込んだトランプ政権の対応と、そこに至るまでの外交を俯瞰して、果たしてトランプ外交はどのようは方向性にあるのかを論じる記事が出ています。

毒ガスで無辜の民を殺戮する政権に、問答無用の巡航ミサイル攻撃で応えるのが彼流のやり方であると即断しない方が良い、というのがThe Economistの見方です。常々彼が言っている「アメリカ・ファースト」という考え方に立てば、今回の対応はひとつのオプションを示したものに過ぎない、すなわち状況に応じて国益にかなうあらゆることを、彼はしたりしなかったりするのだ、ということなのですが。

そう考えると、たとえば朝鮮半島におけるアメリカの国益とは何なのかと考えることがこの先のトランプ外交を読むうえで一つのカギになってくるのではないかという見方ができるのではないかと思います。だとすると、対北朝鮮もそうですが対韓国、特に大統領選挙の帰趨が大きな要素になるのではないでしょうか。

確かに軍事的な緊張は緊急性が高いわけで、世間の注目も集まりやすいのは確かだと思います。高い注目度と相まって派手な軍事演習やミサイル発射などの影響で、日本の各種報道では「アメリカと朝鮮半島」というとどうしても北朝鮮のことが中心になってしまいがちですが、むしろ韓国を含む半島の今後をどうみるか(どうするか)というあたりにアメリカの戦略の力点がおかれているのではないだろうか、北朝鮮をどうするかについては韓国大統領選と表裏一体の流れの中で決まってゆくことなのではないだろうか、そんな見方ができるように思います。