新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

中国参入って、今ですか?

The Economist6月24日号のFinance and economicsによると、世界の投資インデックス(投資信託などが参照する金融商品の価値指標)に、中国の債権市場のそれは組み込まれていなかった、のだそうです。これまでは規制により外国人が買えなかったから、ということなのですが、今年の7月から香港の債券市場を通じて外国人投資家も購入できるようになる、と言われているとのこと。

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これが実現すると、外国人投資家の資金は香港で中国本土の債券を購入することにも仕向けられるようになり、当然世界の投資インデックスも中国の債券市場の影響を受けるようになるわけで、The Economist的に言うとそれは成長の機会、投資の機会を増やすことにつながるという話だと思います。

 

動かない

ネットで流れているThe Economist6月24日号のAsiaには、進まない日本の受動喫煙防止法についての記事が出ています。

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曰く、自民党国会議員の7割が同法に反対するグループに属していること、国は受動喫煙防止を言いながら日本たばこ産業の株式の1/3を保有していて、毎年多額のたばこ税を取っていることなどを参照しながら、事態が動かないことについての「なぜ」を問いかけています。

内包する二律背反を自力で解決するのは言われてみれば大変なのだろうなと。まずは日本たばこの株を売ることから始めてはどうでしょう。あとは、イノベーションという観点から言えば電子タバコの普及ですかね。そうすれば税収の落ち込みもカバーできるのでは?

そこまで考えると、この事態が動かないのはむしろ不作為によるものではないかとすら思えてきます。焦眉の急ではない、ということについて目に見えないコンセンサスがあるということなのかもしれません。

同じことを報じても

アメリカでは、下院議員が入閣すると議員資格を失い、その議席を埋めるための選挙が行われます。ということで、つい最近行われた4つの下院補欠選挙ですが、いずれも共和党勝利する結果に終わったことは、日本でも報道されていたと思います。

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投票前には大統領の不人気も手伝ってか、共和党の牙城であっても民主党が勝つのでは?といった報道もあったようですが、蓋を開けてみれば僅差だったとはいえ共和党の4戦全勝に終わったことを受け、NHKなどは「踏みとどまった形」と報じました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170621/k10011025071000.html

The Economistの場合、もう少し数字に踏み込んでいまして、4つの選挙区とも過去の投票実績に比較して共和党の得票率が大きく減少していることを報じています。

果たしてそれが次につながる変化なのか?については、民主党から「これは」という提案が示されているわけではない状況でもあり、まだ何とも言えない段階のようです。

ただ、今回の選挙はいずれも共和党の牙城と言われた地域だったことを考えると、踏みとどまったという結果よりもダメージが大きいのではないかと。

株価は強気な相場が続き、本来的には共和党に追い風となっていてもおかしくない状況のはずなのですが・・。この落差が何によるものなのか。巷間言われるような、メディアと政権のぎくしゃくした関係が報道のトーンにも影響しているのか、若干以上気になるところではあります。

報道されない話について

さきごろ、北朝鮮が国家反逆罪で懲役刑を課していたアメリカ人大学生オットー・ワームビア氏が意識不明のまま帰国を許され、その6日後に亡くなったというニュースが日本でも報道されたと思います。The Economist電子版は同じニュースについて、アメリカから北朝鮮への訪問が近々禁止されるのではないかとの観測とともに伝えています。

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記事によると、このところ毎年アメリカから北朝鮮を訪れる人は1000人ほどいるのだそうで(!)、それは北朝鮮を訪れる全外国人の1/5にも上るのだそうで(!!)、いやそれはちょっと驚きだなと思っていたら、それ以外にもたとえば旧ソ連の強制労働所だとか、チェルノブイリあるいはイランなど、アメリカ人の母親からすれば「できれば行かないで」と言いたくなるような訪問先を選んでツアーを組んでいる旅行代理店もあるのだそうで。このあたり、日本では報道されない話です。

ワームビア氏はホテルに貼ってある政治スローガンのプラカードを盗んだことで逮捕されたのだとか(お土産気分だったんですかね)。えっ、と思うのは今の日本にいるからなのかもしれません。日本で報道されているような北朝鮮像に接していたら、果たして彼は渡航したのか?そういう意味ではお互い様、なのかもしれませんが。

固有名詞で覚えようよ

さきごろ、イギリスでタワーマンション火災があり、多くの犠牲者が出た事件は日本でも報道されていましたが、どうしてだか日本のニュースでは固有名詞を報道しなかったので、それが西ロンドンのケンジントンにあるグレンフェル・タワーという建物だったことを知っている方はあまり多くないかもしれません。

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The Economistはさすがにイギリスのメディアだけあって、電子版の記事では結構詳しい話が出ています。火元は4階のアパートにあった冷蔵庫で、それが爆発した火が外壁材を伝わってたちまち広がったと考えられる、と記事は伝えています(外壁材については日本のニュースでも触れたところがあったと思います)。また、この建物には外付けの非常階段も、スプリンクラーも、火災報知機もなかった(!)のだそうで、そう考えると防災上の事例として、日本のタワーマンションには当てはまらない事例なのかもしれません(日本のメディアはだいたいこの辺で見切りをつけるのでしょうね)。

もう少し深堀すると、日本で報道されなかった話として、この「ないないづくし」のアパートは安い物件だったのか、移民などイギリスに来たばかりの人が多く暮らしていた、のだそうです。そしてさらに、メイ首相が現場を訪れたとき、彼女は消防など関係者を慰労するだけで、被災者とは「会わなかった」ことも記事は批判しています(このあたりは以て他山の石とすべき話、だろうと思います)。被災者の自己意識に「被差別」が巣食う可能性の芽を摘むための政治的配慮はなかったのでしょうか。

イギリスやアメリカでも過去にタワー型の建物で起こった火災が多くの人命を奪ってきた事例はあるようです。失敗に学ぶことがいかに難しいか。そのためにはまず、事件を特定できるよう、固有名詞で物事を整理するところから始めるべきではないかと思うのですが。

 

オーストラリアで起こったこと

6月17日号のThe EconomistAsiaに中国と近隣諸国に関係した記事をいくつか載せていますが、そのうちの一つ、オーストラリアにおける政治献金スキャンダルに絡んだ記事に注目します。

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記事によると、中国の不動産デベロッパーなどからオーストラリアの与野党政治家へ政治献金がなされている動きがあるのだそうで、その背景にはオーストラリアにとってインドに次いで第二の移民出身地となっている中国の、中国系オーストラリア人を介したコネクションが存在する、とのこと。オーストラリアで学ぶ中国人留学生は16万人に上り、中国人投資家にとってもオーストラリアは、何かあったときに安全な投資先なのだとか。

政治献金の目的は、オーストラリアとアメリカの分断ではないかと、またロシアがアメリカの政治に介入したと言われるやり方に酷似していると、専門家筋は見ているようです。

やらないんじゃなくて、できない

6月10日号のAsiaには、国連の特別報告者が日本政府によるメディアへの締め付けを批判した報告書と、それに対する日本の対応に関する短い論評が載っています。アングロサクソン社会が認める正論のあり方と、過去の日本の対応について、日本に居る日本人の目には示唆に富む内容だと思いましたので、今日はそれについて。

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記事では、特別報告者であるデビッド・ケイ教授がまとめた日本のメディア統制に関する報告書が日本でどのように取り扱われたかが紹介されています。すなわち、学究からは妥当性を疑われ、日本政府担当閣僚は報告書の信ぴょう性に疑義を示し、報告者と会うことすらしなかった、というのですが。

私も報告書そのものを読んだわけではないので、どの程度トンデモナイ内容なのかを把握せずに書いている状況ながら、妥当性に疑義があるというのであれば、会わないちおう対応を取るのではなく、国連の責任を問うくらいの反論や具体的な行動を示すべきだったのではないかと考えます。

記事は、日本が議論の機会として報告書を取り上げる対応を取らなかったことについて疑義を示しています。無視するんじゃなくて議論したら?というあたりがアングロサクソン的というか、上から目線的な物言いになっていて、一読しただけではシラケルことこのうえないお話しです。

かつて世論を騒がせた従軍慰安婦に関するクマラスワミ報告についての対応もそうなのですが、国連との関係について事を荒立てる可能性がある選択肢を、日本政府はまず取ることがありません。これにはさまざまな理由があるようで、今日はその点についてあまり深入りはしませんが、要は「やらないんじゃなくてできない」状態なのではないかと言うのが私の見立てです。

一言で表現すれば「戦勝国中心の体制保全装置」である国連は、時折ですが日本の国益を平気で無視するような対応を取ることがあります。そもそも自らの立ち位置が確保しづらい環境の中で、それでも状況をなんとか改善させたいと考えるなら、事を荒立てないまでも粘り強く説明する、あるいは不当な認識があるならそれを積極的に潰す、ような対応を、諦めずに執るべきであろうというのが当たり前の考え方だと思うのですが、もしもそこに「できない」ことにつながる障害があるのであれば、まずはそれを取り除く努力からはじめなくてはならないわけですね。

似たような、お門違いの報告や明後日の方向を向いた指摘は今後も折に触れて出てくるかもしれません。その都度、無視することでやり過ごすしか選択肢はない、というような状況に自らが自らを追い込むことのないように。