新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

イラクの今

年の瀬、クリスマス、政府税調会長の辞任、その他・その他で本来ならもっとニュースになってもよいはずのイラク情勢は混迷が常態化したらしく、あまり上位で伝えるメディアが見当たりません。あってもそれは「自爆テロで何人死んだ」的な事実報道に終始している例が多いように思えます。

The Economist12月16日号は、ロシアと英語の記事が目立ったせいか、他を思わず読み流してしまいそうになるのですが、その中でも目に留まった記事の一つがクルド人を巡るレポートでした(America between the Turks and Kurds)。

イラク戦争を巡ってアメリカに好意的な二つの勢力、すなわちトルコとイラク領内のクルド人地域の間で緊張が高まっているが、さてアメリカはどうするの、というのがレポートの趣旨です。

イラクのクルド人は今、歴史上かつてない自由を享受し、自らの「国づくり」に燃えている、との記述にはさもありなん、と思ってしまいます。その彼らからすれば、イラクの圧政から自分たちを解放してくれたアメリカは何よりの頼りであろうと思われます。

一方トルコはと言えば、EUとの懸案事項になっているキプロス問題を西に、東には自国内にモザイクのように張り巡らされたクルド人居住地域独立の火種を抱えた、かなり危なっかしい状況にあります。これを力で押さえることでかろうじてバランスを保っているのが正直なところであろうと思います。

トルコ領内のクルド人にさまざまな形で援助を行うイラクのクルド人に対して、トルコ軍が越境して制圧に当たるのではないか、今や「それが避けうるかどうかではなく、何時越境するのかが焦点になっている」、とレポートは続けます。

アメリカがトルコに自制を求めていることから、トルコ側としては「ではアメリカが直接クルド人勢力と話をしてくれ」と考えているだろう、とも分析しています。

レポートは、「無論アメリカの興味は、トルコ内のクルド人が自治権拡大と交換に非武装化を受け入れて、トルコとクルド人の両方が収まるようになることであろう。がしかしながら、そのどちらかを取るとなったらアメリカは、比較的強大で裕福なトルコを選ぶだろう、そうなったときに収まらないクルド人がアメリカから離れるとすると、トルコに対するアメリカの考え方も一様にはならず、結局トルコもクルドも失うと言う、アメリカにとっては考えたくもない成行きになる可能性もある」と結ばれています。

いささか悲観的に聞こえるかもしれませんが、実際のところ「あちら立てればこちらは立たず」、の典型例を見るような思いがします。クルド人の夢が独立による主権国家の樹立であることは論を待たず、一方トルコ側には領土の東側半分にも散らばるクルド人の独立を認めることは、国家の基礎を台無しにされることに等しく、対EUの交渉力を担保する目的から言っても決して受け入れないでしょう。決裂が予め見えている交渉、ということになります。

北朝鮮を巡る六カ国協議が壁にぶち当たっているような報道が主流ですが、出口のないのはクルド人問題もある意味で一緒ですね。

個人的には、このパズルを解く鍵はEUと、そしてロシアが握っているような気がします。アメリカとこれら大国が、何をどのように取引するのか、その大枠の中でトルコのEU加盟も、イラクからのアメリカ軍撤退も、更にはイラクのクルド人地域の明日も、連続的に決まってゆくような気がします。無論、それがすなわちこの地域の平和を保証するものでは、ある意味全くないのですが。

クリスマス前、と言うことだと思いますが、12月23日・1月5日合併号が早々と配達されてきました。早めの帰省でその間ブログがつけられないため、土日はこの合併号(いつもの慣例に従い、12月23日号、と呼ばせていただきます)から拾い読みして書いてみたいと思います。12月16日号には他にもアリエル・シャロン元イスラエル首相の半生記や、先ごろ亡くなったチリのピノチェト元大統領のObituaryなど、目を引かれる記事がいくつかあったのですが、お蔵入り。

寒くなってきました。本格的に年の瀬です。