新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

原発への賛否

ネット版のトップはWhen the steam clearsというタイトルで、福島第一原発の水蒸気になぞらえて、この問題が解決されたら(水蒸気がなくなったら)原子力発電はどうなるのか、というThe Economistrらしい問題を取り上げています。メキシコ湾で海底油田のリグが爆発しても石油依存体質が変わるわけではなく、アイスランドの火山の爆発で飛行機が飛ばなくなっても交通機関として飛行機がその立場を喪わなかったのと違い、原子力発電の今後は大きな見直しを迫られるだろうという話。その理由は、世界では原発による電力供給は全体の14%にすぎないこと、今回のトラブルで建設コストが高くなることなどが考えられるわけですが、今一つの理由として化石燃料ながら比較的クリーンと言われる天然ガスの潤沢な供給が可能になりそうだという話があるようです。

こなた、地球温暖化対策も待ったなしなわけですが、こちらはこちらで原子力よりさらに環境への悪影響が懸念される石炭火力を締め出してゆくなどの対策はありうること、また中国やフランスなど、原発建設を見直す動きのない国もあり(地中へのCO2蓄蔵はまだ技術的なハードルは高そうですが)、今までより少なくなった原発と、今までより多くの天然ガス発電所を使いつつ、石炭火力を外し、そして地球は少しだけ「暖かくなる」というのが、ありうる変化ではないか、というのがThe Economistの読みであるようです。

それでは日本の今後はどうなるのか?中長期の流れはThe Economistが書いていることに大きな齟齬はないと思うのですが(安いガス>高くなる原子力)、短期的にはちょっと違う選択肢がありえるのでは?というのが私の考えです。

論理的・戦略的に考えれば、補修・補強と最大限の危機対策を行ったうえで第二原発と5・6号機を再稼働させて、この夏の停電を最小限に食い止めつつ産業と民生の早期復興を図る、というのが正解ではないかと思うのですが、今しばらく「国民感情」に足を絡めとられた現政権とメディアは、とても怖くてこの選択肢を採用するだけの度量を示すことはできないでしょう。

自主避難措置のいい加減さ、原発避難民への手当の薄さ(東電は、自社の保養施設でも開放したか?)など、「原発」がらみの政府の対応は何もかもが場当たり的であり、「とりあえず1〜4号機の問題を収束させる」こと以外は一切何も考えていないのが明らかです。無論この問題が最優先であることは論を待ちませんが、しかし。

未曾有の国難を制することを目指さんがために、取らなければいけないリスクもあるのではないかと思います。日本経済の復興、産業の復興を目指すなら、エネルギー供給に関するリスクテイクは不可避のはずではないでしょうか。

リスクを恐れる国民感情をまず最優先に、そのうえで可能な復興を行っていく、といったような結論しか、残念ながら今の政治には導き出せないのではないかと思われます。それだけ軽量、それだけ浅薄、そんな感じがしてなりません。日本の今後を占ううえで、リスクへの惧れがどの程度発想を貧困にするのかについて、今後しばらくは注意深く観察を続けたいと思っています。