新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

マージャン的歴史観

ネットでは11月30日号が流れています。

Leadersのトップはイランの核開発問題に関する米英仏独中露6か国との合意についての解説、続いて中国による防空識別圏の設定問題、電子マネーの拡大、EUとの関係を模索するウクライナ、ドイツで成立した大連立政権とそれにより予想される政策のスピードダウン、タイの政情不安という内容になっています。

イランの核開発問題については、双方少ない譲歩を確認し合っただけにとどまるものですが、国際社会がこれに一定の評価を与えているのは将来的な交渉の継続と、核開発停止の進捗に従って制裁が解除されるという仕組みもさることながら、これまでイランに影響力を持ち続けてきたロシアそして中国にも合意に参加していることで、歴史的経緯を踏まえた信用問題を漏れなく縛りとして活用することが織り込まれているからだと思います。

これまでの立ち居振る舞いからするにイランは必ずしも約束をきちんと守らないだろう、その場合、ロシアと中国を交渉側につけておくことで、イランにとって約束を順守しないオプションの価値を低下させることができる、さらには過去にイランと友好的な関係にあった両国がその歴史を踏まえてイランに対応することにより、イランの取りうるオプションを可能な限り制限できる、という文脈だろうと思います。

イスラエルはこの合意を「歴史的誤り」と批判しています。確かに北朝鮮やキューバなど、イランがその気になれば合意を反故にするためのチャネルはまだ複数存在しているということだと思うのですが、そんなことをするとますます自らを孤立に追い込むだけであるという、多対多の関係における位置を明確に伝えることができた(そして交渉の上ではイランもそれを受け入れた)ことがまずは成果なのだろうと思います。対外交渉は一対一で行われるわけではない、むしろ多極間の利害調整を軸としたいわばマージャンを打つような交渉になるという好事例かと思います。お互いの過去の打ち方がどうだったか、どういう経緯で現在の点数になったかなど、展開の歴史をしっかりと捉えて交渉の枠組みを設計し(メンツをそろえ)、そこから先は慎重に手の内を読んで打てる手を打つ、ということだと思います。

同じようなアプローチは北朝鮮の核開発問題に関する六か国協議でも取られています。北朝鮮との合意そのものは過去に存在したわけですが、それがたびたび反故にされてきたというその経験を、国際社会としては対イランの交渉にも生かしつつ、引き続き交渉を進めて行く、ということかと思います。