新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

勝利、暗澹たるその後

ネットでは7月8日号が流れているThe Economistの記事ですが、今日はLeadersの最後に出ている中東のIS問題を巡る記事に注目します。アメリカの支援を受けたイラク政府軍他の奮闘により、IS壊滅がいよいよ視野に入ってきたという報道は日本でも目にします(ここ数日は台風や九州を襲った豪雨のため、あまり目につかなくなっているかもしれません)。

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記事が指摘するのはISが壊滅した後で何が起こるのか、という根本的な問題で、アメリカのトランプ政権は安全保障関連のスタッフがまだ揃っていない状況にあり、対応力が弱いこと、さらにアメリカが考えていることはと言えば①ISを壊滅する、②イランの力を低下させる、③中東問題におけるアメリカの関与を引き下げるという矛盾そのものであることなど、アメリカに期待すれば何かがうまく働く、というような状況には全くなっていないというのがその読み解きです。結果としてアメリカとイランの対立は不可避、と同誌は見ているようです。

仮に中東方面が静かになってくれれば、たとえば北東アジアへの注目度は相対的に上がるのだろうと思うのですが、記事の語るところを考えるに、ISが壊滅したからと言ってアメリカの憂鬱が軽減されるわけではなさそうに思えます。

IS後の空白地帯で何が起こるのか。具体的には誰が、何を、どうしようとするのか、そしてそれは何のためなのか。水晶玉を持っているわけではないので、そこから先は読めないことだらけ、というのが現状のようです。

日本株式会社の遅い改革

The Economist7月1日号のbusinessには、先日身売りが決まったエアバッグ大手のタカタの経営に関する簡潔な論評記事が出ています。ある意味で明快に結論の出た話なので、その書きぶりも淡々としたものですが、失敗は同社における透明性とリーダーシップの欠如にある、とするものです。

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すでに日本のメディアでも、深読みしたものやスクープ情報も含め、様々なことが書かれていますが、東芝やシャープの事件も参照しつつ、The Economistは日本的経営の改革が遅きに失していることへの警鐘を鳴らしています。

私は東電福島原発で有効な地震対策が講じられなかったことも含め、いわゆる大企業における不作為のミスが引き起こす(引き起こしてきた)失敗には構造的な共通点があるように見ていますが、その意味ではタカタの件にも共通するところがあって、それは危機に臨んだときに経営者が見せる想像力の欠如あるいは貧困を、組織として補完する手だてを持てていないことではないかと見ています。逃げ、隠れ、隠し、ついには破たんする。そうすればそうなることが明快に解っていたはずの失敗から逃げられない。

これとは異なる事例として、歴代の有名社長に比べて在任期間が長いわりに功績に乏しいと批判されがちなトヨタの豊田社長について、The Economistはタカタと比較する事例として2009年に発生したリコール問題を積極的な情報開示で乗り切ったことを挙げていますが、確かにトヨタを守ったというその功績だけでも彼が評価されるべきであろうとの議論はある意味で的を得ていると思います。かつて栄華を誇った電気電子は全滅、日産も外資の軍門に下り、このうえ日本企業を代表するトヨタまでおかしなことになっていたとしたら、「ものづくり日本」なんていうおめでたい議論は雲散霧消していたかもしれません。多くの大企業がその勢いに陰りを見せ、経済面で行き詰まりが懸念されている韓国にくらべ、日本がいまだ土俵際で踏みとどまっていられるのはトヨタのおかげ、ということでしょうか。願わくばその踏ん張りに胡坐をかいた現状肯定主義が、タカタに続く不祥事の温床になりませんことを。

今年ばかりは

今週、イギリスではテニスのウィンブルドン選手権大会が始まりました。The Economistはさすがイギリスの週刊誌だけあって、電子版には大会に関する結構しっかりした記事が出ています。

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曰く、男子はフェデラー、女子もクビトバを軸に俯瞰して、だれが勝つのか全く予断をゆるさない、との論調です。男子の4強そして穴馬(?)にラオニッチ、チリッチ、キリオスあたりの名前が出てくるのはさすがイギリスです。テニス雑誌を除く日本のメディアでここまで踏み込んだ解説をするところはたぶんないでしょうね。ちなみにキリオスはケガで一回戦を棄権してしまったようですが。

女子もクビトバ以外に全仏を制したオスタペンコ、加えてアザレンカ、リシツキ、ビーナス・ウィリアムス、それに第一シードのケルバー、好調のハレプ、プリスコバと抑えるべき人の名前は一通り上がっています。

日本の錦織、そして大坂の名前は全く上がっていませんが、どうなるかわからないという予測は、逆に言えば彼らにもチャンスはあるかもしれない、という読み方もできなくはないわけで。

特に大坂はオスタペンコにも勝ったことがあるはずなので、当たればすごい、ということで期待したいと思って見ています。錦織は、一にも二にもフィジカルですかね。ちょっとだけ期待して注目したいと思ってますけど。

 

日本で自殺者が減っている、というニュースの価値とは

The Economist電子版ですが、日本の自殺者が過去20年間で最低水準にまで減ってきた、のだそうです。これを受けて政府は向こう10年で更に3割ほど自殺者を減らしたいという目標を立てたのだとか。

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日本ではあんまり注目されていないニュースではないかと思うのですが、人口減少時代にあって自殺者が増えるようでは深刻な問題だと思われることから、減っているならそれは歓迎すべきニュースと言えるのかなと思います。もしかして、減っているのは人口(そもそもの母数)が減っているからでは?

そのあたりの検証について記事は多くを語っていませんが、減ったところで依然として、日本は10万人当たりの自殺者数で18.5人と、OECD加盟国中第三位の高率だそうです。

大統領令を巡ってアメリカ最高裁の決めたことについて

日本のメディアでも昨日にかけて、米トランプ政権が打ち出した中東6か国からの旅行者を3か月間アメリカ入国禁止とする大統領令が連邦最高裁によって条件付きで容認したという報道が流れました。The Economistも電子版でこれを取り上げています。

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でもその条件とはどんなものなのか?しっかり触れた報道は日本では少なかったように思います。The Economistの解説によると、対立軸はトランプ政権とハワイ州、およびトランプ政権と国際難民支援プロジェクトというNGOの二つがあるようです。決定では10月以降に、最高裁判事の立会いの下で対立する各者による口頭弁論が行われるとのことが謳われているのだそうですが、これが開かれずに終わる可能性もあるとの話。

どうしてかというと、トランプ政権が言っているように3日以内に大統領令を実施すると、おしまいは9月27日となり、10月になるとすでに失効した状態になっているはずで、誰も失効した大統領令の適否を論じることに意味を見出さないのではないか、との読み解きです。ではどうしてこんな変な条件がついたのか?ですが、誰も急がなかった、というのがその背景にあったようで、よく時間がものごとを解決してくれる、などと言いますが、とりあえずの妥協を時間を区切った形で受入れ、口頭弁論の予定を立てることで法的に果たすべき義務は果たした、ということなのかと。

一言で言うとややこしい決定だったということかと思いますが、「条件付き」の内容を伝えない端折った報道に、何だか置いてけぼりを食ったような印象を感じてしまった事例でした。

航空機が良いファイナンスの機会である理由とは

The Economist6月24日号のFinance and economicsには、さきごろパリで開かれた航空ショーにちなんで(?)、航空機を対象としたファイナンスが将来大丈夫なのか注目されている、という記事が出ています。

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航空機をリースするビジネスがこれまでうまく行った理由について。飛行機に乗る人が増えて市場が拡大したことは言うまでもないとして、航空機が何と言っても動産であること。次に中古でも十分な需要があること。借り手がおかしくなれば他に使ってもらうことでキャッシュフローを継続させられますからね。LCCをはじめとして世界には旺盛な需要があり、ボーイングエアバスなど売れ筋のタイプが決まっているので消耗品やスペアパーツ、整備そして運航技術に共通なものが多いのもファイナンスしやすい一つの理由になっているわけですね。The Economistの読み解きでは、「他のファイナンス機会によるリターンが低い」ことも大きな理由になっているようです。

中国で航空機を取り扱うリース会社はここ10年でゼロから50社にも増えたこと、欧州はじめ主要な市場では供給過多の兆候が見られること、利上げがリース料金に影響すること等、ビジネスの曲がり角を予測させる変化もみられるようです。しかしながら今後も航空機を使用する人は増えると予想されていることもあり、経済状況に合わせた柔軟なリースプランは堅く生き残るのではないか、という見立てです。

MINISO、知ってました?

The Economist6月24日号のBusinessには、このほど平壌にオープンしたMinisoという雑貨店の話題が出ています。

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ダイソーユニクロ無印良品を合わせたような(?)店構えは、The Economistによると「中国の企業家と日本のデザイナーの協力による」とのことなのですが、初めて目にする名前だったのでネットで調べてみたところ、すでにソウルなどでは結構知られた店らしいです。

日本で報道されないのは、注目に値しない会社が注目に値しない市場で始めたビジネスだから、ということなのでしょうか。

果たしてこの店は繁盛するのか?売れ行き予想についてThe Economistは比較的好意的な書きぶりですが、併せて「2008年に北朝鮮で携帯ビジネスを始めたエジプトのオラスコム社は、まだ一度も利益送金ができていない。そうこうしているうちに2015年には北朝鮮政府が独自の携帯ネットワークを持つための会社を設立した。」との注意書き(?)も忘れずに記しています。さて。