新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

報道されないいくつかのエピソード

1月18日の日経夕刊13面に、米大統領選挙向けの民主党候補選びにおいて、ニューハンプシャー州予備選に先立ちヒラリー・クリントン候補が流した涙の力に関する報道がありました。それによると、女性からの「どうして前向きですてきでいられるか」との質問に対して「簡単じゃない」と言って目をうるませた、というところまでが報じられています。

一方、The Economist先週(1月12日)号を見ると、同じシーンについて続きがあり「ただアメリカが駄目になってゆくのを見たくないの」(だから自身は大統領候補として前向きですてきでいようと努力している、という説明かと推察します)、とのコメントがあり、有権者を奮い立たせたのはむしろこちらの台詞ではないかと思われます。

無論、涙の力が大きかったことを否定するものではないのですが、たとえば老齢の男性候補が同じ質問を聞かれて、涙なしに同じ台詞を言ったとしてもどれだけ訴求力を持つか、と考えれば関心の焦点はおのずと「涙の力」に収斂します。ただ、それがいかにも「女性の弱さ」を表面に出したかのような捉え方はアメリカ大統領選挙というイベントの性格を誤って伝える可能性すらあるのではないかと危惧するのは、「弱者」のレッテルを貼られた人間が勝てるような代物では到底ありえないからです。アメリカが駄目になってゆくのを見たくない、と言って涙する60歳の女性ベテラン政治家、はすなわち愛国心の象徴となり、有権者の貢献意欲に火をつけた、と読み解くのが正解であるような気がします。

前置きが長くなりましたが、1月19日号のAsiaには(本当はObituaryでもおかしくないのですが)最近亡くなったエドムンド・ヒラリー卿に関する逸話が載っています。エベレスト初登頂を成し遂げた偉人の死は日本でも各メディアがとりあげましたが、The Economistが伝えるところによると、卿はその後半生をネパールのシェルパに貢献することに費やされ、病院、30校もの学校、橋、辺境地の滑走路などが作られたのだそうです。このような話が報道されずにちょん切られることの多い日本のメディアには少し反省してほしいものだと思っています。

Asiaの直前のBriefingには中国による人工衛星撃墜実験により一気にその数が増えた「宇宙ゴミ」の話、Asiaでは台湾で予想される政権交代の動き、新年度予算通過に汲々とした福田政権、アフガニスタンのセレナホテルで起きた民間人を標的とした自爆テロなど。United Statesでは選挙戦に続いて学生確保のために授業料や補助金のシステムを見直したハーバード大学とイェール大学、農業機械化等により中西部の人口が減少していることなど。Lexingtonは歴史的に原油を争いの原因としてきたアメリカについて、となっています。