新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

オルト・ライトをどう見るか

The Economist12月10日号のBusinessは(他の欄ではなく、なんとBusinessです)、アメリカのトランプ政権で主席戦略官・上級顧問として戦略を担うことになったスティーブン・バノン氏の出身母体であるブレイトバートニュースについて詳しく紹介しています。いわゆるオルト・ライトと言われる勢力の、特にメディアがどういう位置づけなのかについてはなかなか日本の報道でもカバーされていない段階だと思うので、これはとても興味深い記事だと思います。

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記事によると、同社は創業9年目、1か月に45百万回の視聴があるなど、ネットメディアとしてはかなり読者数も多いらしいことがわかりますが、日本の場合と比べてどうなのかなど、統計的なデータが手元にないので正確な比較は難しい状態です。

で、その主張は「反グローバリズム」だそうで、記事が伝えるところによると、同社はこの意見を世界的に広めるためイギリスやドイツにも進出しているのだそうです。反グローバリズムをグローバルに展開する、というあたりが若干分かりにくいと言えなくもないですが、ビジネスとしてみた場合にはそれなりの成算もあるようで。

EUが推し進めてきた移動の自由や難民受け入れ政策が行き詰まる中、各国では極右政党と言われる勢力の伸長もあって、確かにこういうメディアが受け入れられる素地はできつつあるのだろうと思いますが、日本はと言えば移民受け入れについて閉ざされた現状はまさにオルト・ライトが主張するスタンスに近いのだと思います。他方で日本が求める自由貿易は彼らの主張と明らかな隔たりがあるように思うのですが、このメディアの主張とトランプ政権の政策が重なるようだと、国際社会が進めてきた自由貿易環境政策は停滞を余儀なくされる懸念もある、ということかと思います。

選挙後、数あるスポンサーの中からコーンフレークのケロッグなどいくつかの会社がスポンサー契約を打ち切ったようですが、日産は契約を継続しているのだとか。アメリカの選択肢としてオルト・ライトが今後どのように影響力を持つのか、興味がもたれるところですね。

バイクを作るベンチャーの話

12月10日号のBusinessから。

世の中、さまざまなベンチャービジネスはあれど、オートバイ、もしくはモーターサイクルを作ると言われると、へっ?と思われる方も少なくないのではと思います。だって需要は伸びないだろうし、東南アジアで売れるのは原チャリ(失礼)ばっかだし、ホンダ、スズキ、カワサキヤマハと日本メーカーが勢ぞろいしているのに、そこへベンチャーだって?と言うのが、記事を読む前に思ったことだったんですね私も。

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で、The Economistが紹介するのはヴァンガードロードスターという会社で、これまでの累計生産台数はわずか1台。それの何が凄いかというと(別に凄くもないのかもしれませんが)、デザインから生産までのプロセスを可能な限りコンピュータ化してしまったこと、だそうで。そのおかげでこれまでの半分ほどの工期で、人手もかけずに新しいモデルを市場投入できるのだそうです。バイク製造のデザイナーと経営コンサルが二人で始めた会社だということ、ハイエンドな大型バイクの製造に特化し、ニッチなマーケットを狙う戦略らしいということ。このあたりは典型的なベンチャービジネスなのですが、そういった属性のあれこれよりも印象的だったのは、

「オートバイ製造なんていう、成熟・飽和した市場でもベンチャーはできるんだ。」

ということですかね。

そう考えると、アイディアと技術があれば、枯れた市場でも十分起業のチャンスはあるのだろうと思えてくるから不思議です。たとえばガラケー。あるいは音楽CD。そういえば今朝の新聞に、ラジカセ再燃、みたいな記事も見かけましたし。アタマを柔らかくしておく必要性を、そんな部分で感じさせられた記事でした。

アメリカビジネスのこの先

前後しますが、12月10日号のLeadersトップ記事について。

トランプ次期大統領が政権発足に備え、着々と布石を打っていることは日本でも報道されている通りなのですが、その中で彼が人目を引くような個別企業(フォードやボーイングなどについては日本でも報道されています)に対する明示的な要請を繰り返している点が目立ちますね。曰く、メキシコに行くな、アメリカに生産拠点を残せ、云々。

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その文脈で読み解けば、ソフトバンク孫正義氏がVIP待遇でトランプ氏に会えたのも、アメリカに投資をして雇用を作るという申し入れが奏功したというのが見えてくると思います。でも、とThe Economistは説くのです。

もしもメキシコに生産基地を移した方が競争力が増すのだとしたならば、移転しなかったことによって本来なら得られたはずのキャッシュフローを犠牲にすることになります。株主の期待利益は減らされ、税収も増えず、相対的に競争力を増す他のだれかに対して不利になる選択肢をトランプ氏は企業に(しかも個別の)迫っているわけで、結論を言えば「それは違うだろう」と。

保護主義が生んだ大統領、という立場の不利をトランプ氏がどこで問題視し、どこで政策を転換することになるか(記事の書き手はそうならないわけがない、というくらいの勢いですが)、というのがThe Economistの関心事なようです。おそらく日本の、優秀な官僚機構も似たような判断をしているのではないかと思うのですが、そのあたりは若干疑問ですね。ツイッターを軸に情報発信をする彼のやり方は、どうもメディアの考え方とはリズムが違っているように見えて仕方がありません。

島は帰らない?

12月10日号のAsiaには、予定されているロシア・プーチン大統領の日本訪問についての観測記事が出ています。それによると、ロシアでの世論が強硬(71%が歯舞・色丹の二島返還にすら反対)であることなどから、返還が実現することは難しいだろうとのことですが、興味深いのはその分析が先日日本でも報道された年末の真珠湾訪問と結びつけられており、「対ロシア交渉での不調を真珠湾訪問すなわち対米関係強化の理由とし、それを成果として1月に解散・総選挙を考えている」、という深読みをしているあたりですかね。

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さらに日本のメディアと異なるのは、結局アメリカへなびくという姿勢を見せることで日本に逃げられたくはないロシアが何らかの追加的な対応を取るのでは、という読みでしょうか(でもそれが日本にとって納得的なものになるのかどうか、については?です)。

また、日本の報道ではめったにその名を目にしませんが、鈴木宗男氏についてもしっかりと「首相の非公式アドバイザー」ということで本件に絡んでいることが報じられています。

おそらくはソースが同じだから、ということではないかと思うのですが、The Economistの結論も日本のメディアと似ていて、「経済特区+ビザなし渡航の緩和」が落としどころだとのこと。大山鳴動して鼠が何匹か、みたいな話になるんですかね。

PISAについて、The Economistの見方

国際生徒評価プログラム、と言ってもピンときませんが、日本のニュースでもPISAという名前は報じられているので、ああそうかと思われる人は多いかもしれません。正式にはProgram for International Student Assessmentというそうですが、この結果で日本がそこそこの成績を上げたことは国内のニュースなどでも報じられていますね。

The Economistもこのニュースには反応していて、電子版ですが結構上位の記事として取り上げています。

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日本の報道と異なるのは、日本ではほとんどが「日本のランキング」と結びつけた報道だったのに対し、The Economistはテスト全体の結果について国別に「費用対効果」や「ランキングの動き」に着目した分析を行っていることです(日本もこういう報道をすれば良いのに)。

記事が伝えるところでは、デンマークポーランドでは前者の生徒一人あたり教育予算が5割も多いのに対して、PISAのスコアは同レベルなのだとか。

ランキングの動きについては、たとえば欧州ではエストニアが伸びていること、隣国フィンランドと併せて高い点を出していること(いずれもモンゴル系の血が入っていると言われている国で、金髪・青い目ですが蒙古斑がある人たちです)。またアルゼンチンやポルトガルの伸びも著しいこと。その背景にアルゼンチンは教育改革、ポルトガルは複合的なテスト対策を行ったことを挙げ、「生徒に習わせる努力」とその成果について示唆的な見方を伝えてくれています。たとえばアルゼンチンでは、先生のストライキを収束させるべく、先生向けのホットラインを作って不満を吸収し、他方で教育の質的向上を図ったのだとか。

記事を読んでいて感じたのは、テスト成果を議論する場合について教職員組合の存在が世界的にネックになっているらしいこと、ですかね。こういう視点を持てるのもThe Economistを読むメリットかな、と思っていますが。

孫文生誕150周年

11月5日号のThe Economistについて、これまでため息と徒労感ばかりが先行したアメリカ大統領選挙がいよいよ大詰めということもあってか、さすがに今週号は関連記事が分厚いのですが、今日はあえてその流れとは一線を画した「孫文生誕150年」についてBanyanが伝える内容を取り上げたいと思います。

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孫文、というのはどうやら国際的に使われている名前ではないようで(ポルポト派、とかMoutakutouなどのように、海外では通じない言い方のひとつ?)Sun Yat-sen(孫逸仙)というのがThe Economistが使う呼称です。なお、中国では孫中山と標記されることが多いのだそうですが、Wikipediaによるとこの名前は日本に亡命していた時に見かけた国会議員の家の表札から取ったものなのだとか。

孫文 - Wikipedia

「統一と民主主義と繁栄」を追い求めた孫文

いずれにせよ、建国の父たる孫文の、今年は生誕150年に当たるのだそうで、共産党と激しく争った国民党を作った人、のはずが今や彼を建国の父と称えるのは中共政府、他方で台湾は現政権に強いと言われる独立志向の考え方がそうさせるのか、今一つ冷ややかな扱いだそうです。ちなみに、マカオやペナンなど、彼の時代の中国が今でも息づいている各地では孫文に関する行事も多かったりするようです。

ソ連と組んだり、袁世凱に利用されたりと、毀誉褒貶相半ばする人生でもあったようですが、三つの目標が今でも生きているとすれば、中共政府も台湾政府も国父が求めたものと少しずつ違った道を歩んできてしまっていることになりますね。

急速な

ネットでは10月29日号が流れているThe Economistですが、肝心かなめの米大統領選に関する記事で注目すべきものはほとんどなく、かろうじて電子版のほうにキャンペーンを急激に縮小しつつあると言われる共和党・トランプ候補の動静が伝えられています。

流石にまだ選挙が終わったわけではないので、あちこちで選挙運動自体は続けられており、「ヒラリーだけは嫌だ」あるいは「何としてもトランプを大統領に」という声が消えたわけではない中、トランプ氏は自身の選挙運動よりも、不動産ビジネスに関わるイベントの方に姿を見せたりしているのだそうです。

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縮小するキャンペーン。The Economistが使ったのはそんな言い方で、選挙戦最終盤に来てギブアップしたかのような印象を禁じ得ないものですが、本当にこのまま選挙本番へとなだれ込むのでしょうか。クリントン候補が本当に地滑り的な勝利を手にするのか、それともアメリカが求心力を失う方向へと漂流してゆくのか、そのあたりをしっかりと見極めたいと思います。