新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

失望の機軸

9月15日号はLeadersでアメリカ軍のイラク駐留継続の理由について、パキスタンの政情、安倍首相退陣、アメリカの経済減速、OPECの発言力回復などについて報じています。直後のBriefingでは、警告を無視して亡命先から強行帰国したパキスタンのナワズ・シャリフ元首相が即時国外退去を受けたことについて詳報するとともに、ムシャラフ軍事政権の対応を、民主主義復活への妨げとして非難しています。

ここでは過去にパキスタンが名目的にだけ民主主義を掲げた腐敗政権の下で味わった機会損失への反省も、安倍氏の適格性と後継総裁選出プロセスへの努力も、そしてイラク侵攻に前後した米英の失策も振り帰られることなく、未来の自由貿易体制へ何が是で何が非かという視点のみから是非が論じられているように思えてなりません。制度としての民主主義は確かに尊重されるべき良い制度だと思います、それが正常に機能すれば。ただ「開発独裁」といわれた80年代の政権が発展をもたらした東アジアの国々がそうであったように、発展段階のプロセスを全て民主主義体制で賄うのがベストかと言われると、必ずしもそうでないことへの洞察は全く無視されているようで、強い「決め付け」であるようにすら感じます。

ムシャラフ政権にも当然腐敗や不正は存在すると思います。しかしながら、もしパキスタンが過去と同じように腐敗した民主主義政権であったとしたら、アフガンを巡る問題にどれだけ当事者としての対応能力を持てたか?逆に民主主義体制でさえあれば、域内紛争の解決をはじめとする多様な問題への正しい対応ができたはず、とでも言うのでしょうか。

The Economistが失望感を表わすときは、だいたいいつも「自由貿易体制への脅威」だったり「民主主義からの離反」だったりします。その意味で安倍退陣も失望材料のひとつのようですが、先進国と途上国というハンディがある以上、露骨な失望感の表明は正直だが不躾な意見、としか捉えられないのではないかと思います。だからといって途上国へのハンディを強調する傲慢性に正義を見出すものではないのですが。強いて言えば「もう少し現場を見ようよ」ということでしょうか。