新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

イノベーションについて

10月13日号の特集記事は「イノベーションについて」ということで、産業全体にとってのイノベーションが持つ意味合いや、地政学的な最新の情報など、密度の濃い記事で大変興味深いです。が、やはり製造業の持つ本来的な役割やイノベーションとの関係など、洞察に物足りなさを感じる部分も多く、The Economistの限界(?)を感じる部分もありました。

それでも最近のIT産業を中心とするイノベーションの潮流についての情報や、輸送機器を中心にしたモジュール生産方式がもたらすであろう製造プロセスの革新など、重要で納得性の高い情報があり、「イノベーションの中心はインドと中国」という分析も大変説得力のあるものでした。

では何に物足りなさを感じたかと言うと、「小さな改善の積み重ねはイノベーションではない」という考え方(ちなみにこれは、日本の製造業でも言われていることではあるのですが)に立脚して、イノベーションを革新的なアイディアの具現化に限ってしまっていることと、何より大事なのは「なぜイノベートするのか」への深い洞察がなかったことです。そんなことあたりまえ、より高い収益、より効率的な生産、より競争力のある産業、という次元の発想だと思うのですが、日本の製造業が目標とする「よりよい暮らし」、さらに分野を超えて追究される「よりよい仕事」、あるいはもっと進んで「夢の実現」という観念的な価値観への洞察はついぞ伺えませんでした。私はこれが(これこそが)日本の製造業が力強く発信できる考え方、哲学ですらあるのではないかと常日頃思っているのですが、たとえばロボット工学(象徴的には鉄腕アトムなど)だったり、ナノテク(同じくミクロの決死圏など)もそうですが、研究開発に携わる人間には「夢」があり、その「夢」を支える経営やシステムとしての企業体が夢の実現を粛々とおこなっていく「さま」があり、イノベーションと言ったところで所詮そのうちのひとつにすぎないのではないかと思うのです。小さなカイゼン、もその意味では同値です。小さいからと言って捨象すべきものではないのです。もしもインドや中国のイノベーターがこの点に理解を示し、きっちりと対応してくるとすれば、私の目にはそれこそが「観念のイノベーション」と映ります。

一般論で言えば、確かにイノベーションがもたらす経済的な意味合いは現代社会においては突出して大きく、ゆえにThe Economist的な関心から言えばそれを深堀りする、と言う目的で今回の特集記事が組まれたのでしょうが、この点、彼我の認識ギャップは大きいなあと、記事を読んで思ってしまいました。