新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

明日の製造業

4月21日号の特集記事後半です。
まずは、The Economist御執心の3D印刷について。そもそもは、コンピュータで設計した部品などのプロトタイプを製作するためのマシンで、私は削り出しか何かだろうとおもっていたのですが、薄い素材の積み重ねで形を作ったり、粉体を凝固させるなどの方法で設計した部品を作りだすというプロセスだそうです。品質が上がり、プロトタイプのみならず、部品の量産もできるようになりつつあるのだそうで、これが記事の通りだとしたら、なるほど確かに新しい生産方法と言えそうです。でも本当にこの方法が部品製造の本流技術になるのでしょうか?将来性を否定するものではありませんが、型押しや打ち抜きなどの単純な素形材の製造方法に比べると、どうしても生産性の面で疑問符がついてしまいます。確かに品質は良いのかもしれませんが、それにしたところで設計値の実現精度は高くても、たとえば粉体凝固プロセスにおける品質管理は3D技術とはあまり関係なさそうに見えます(実際どうなのか、興味のあるところです)。結論として、品質面およびコスト面で3D印刷が製造工程の主流になるという絵姿は、時間的にも技術的にもやや遠いのが現状ではないかと思います。

ついでインターネットを使った遠隔地からのコントロールなどの技術について。こちらは判りやすい事例で、すでに海外展開をしている数多くの企業でこれに近いモデルが採用されていることと思います。今後はたとえば大学を巻き込んだ知財運用などの面でより柔軟なプラットフォームが築かれてゆく可能性があるのではないかと見ています。一つの例ですが、たとえばIPS細胞で有名な京大の山中先生みたいな方がいて、ネット経由でA社のプロジェクト会議に参加したと思ったら次の瞬間はB社の研究所から送られてきたサンプルをチェックしたり、オフィスから動かずに次から次へと仕事を裁いてゆくイメージですかね。

より多くのロボットが製造工程に様々な形で入ってくる、というのも日本にとってはすでに現実のものとなっているわけで、The Economistにとっては特集記事の結論に位置づけうる説得的な明日の姿であるようですが、せっかくこれらの取材をしたのですから、「なぜそうなのか」「どうしてロボットなのか」をもう少し突き詰めた洞察が欲しかったですね。品質とコストを突き詰めた答えとしてのロボット採用は、なにもそれが目的と言う訳ではなく、顧客により良いものを供給するための最善の手段として採用されているにすぎない、というあたりに目配りをしてほしかった。

私見ながら、製造業の明日は製販の距離の縮小、もっというとR&Dから販売までの距離の縮小にあるのだろうと見ています。なぜかと言えばまさに「それが顧客により良いものを供給するための課題だから」、ということになりますね。