新 The Economistを読むブログ

イギリスの週刊誌 The Economistを読んでひとこと

AIが職場を変える その2

The Economist 3月31日号のSpecial Reportを読み込んでみました。AIについて、巷間言われているような話と言えばそうなのですが、バラバラの議論を並べただけでなく、ユーザーの立場から見た機会と脅威について良く整理された記事になっています。もし原文をお読みになる機会があるようでしたらぜひそうされると良いと思います。

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記述の中には、たとえば経営コンサルタントもAIには勝てないのではないかなど、なかなか厳しい見立てもあるのですが、ごく簡単にまとめると、良い点としてはマーケットで良いものを探したり、適性の高い人を雇ったりする「探し物」がしやすくなる点、そうでない点としては究極まで進む人件費削減、危機にさらされるプライバシー保全、そして競争環境下で進む超寡占化などが懸念されるとのこと。

記事を読んでいて思ったのですが、たとえば大企業が採用において男女比や人種構成などを反映した採用を行おうとした場合、人間による選考ではある程度の誤差が許容されるだろうと思われるところ、AIを活用しようとした途端、システム上の「遊び」はゼロになるだろうな、ということが予想されるのではないかと思われます。

すなわち、何万人もの応募者をふるいにかけて、その企業が守るべき男女比・人種構成について理想的な候補者リストを作ってくれる、みたいな話ですが、一旦それが社会に認められてしまうと、似たようなサイズの大企業ではAI選考することが半ば義務化されてしまうのではないか、という懸念が現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

更に採用だけでなく、特に大企業においては、やがてあらゆる意思決定について同様の圧力が働くようになってゆくのではないかと思われます。少し前、ISO9000がどのように普及していったかを思い出すとき、企業が本当にそれを必要としていたのか、市場環境からそれを取らざるを得なかったのかと言われると、後者の場合も少なくなかったはずです。ひとたびそれが常識になると、もはや無しではいられない・・。

まさにジョージ・オーウェルの世界、と言ってしまうのは簡単なのですが、その先に待っているのは人間が直感で勝負できる中小企業の世界と、大規模投資によってAIを使う大企業の世界がどこかでせめぎあう風景なのではないかと思います。コスト的に引き合わない世界には、なかなかAIは入ってこないだろうと思うのですが、システム開発の知見が蓄積されてゆけば、それもやがてはAIに取って代わられるようになってゆくのかもしれません。

その反面で、たとえば予防医学、医療や介護などの分野においてはAIがもたらす福音は小さくないだろうと思われます。開発段階の投資戦略を決めるのは何と言っても人間ですから、それはどうしたって命にかかわる部分が優先される、最低限劣後に置かれることはないのではないかと思われます。AIで様々な変化に対応できるようになることで、過剰医療を削減したり、患者の生活の質を上げるような医療や介護が行われるようになれば良いなと思います。

結果として、AIが人間生活の大きな部分に影響を及ぼす社会になることは間違いないのではと思うのですが、その行き着くところで人間は幸せになれるのか?というのが最も知りたいところであり、記事を読んで考えてみても、なかなか確定的なことは言えない部分でもありました。

AIが職場を変える

ネットでは早くも3月31日号が流れているのはイースター休暇との関係かもしれません。

Leadersのトップ記事は、職場にAIが入ってくることに伴い、予想される変化についての論評です。詳しい記事は今週のSpecial reportに載っているのだそうで、トップ記事は言ってみれば予告編みたいなものかと。

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AIが、管理的な側面で使われるようになると、生産性への締め付けが厳しくなる可能性もあると論じられる中で、人間のマネージャーでは気づきにくい特徴についてもスポットライトが当たるかもしれない(たとえば女性は管理的な仕事より開発・育成的な仕事で能力を発揮する、など)とのことです。

好むと好まざるに関わらず、最初は補助的なレベルから、その後急速に管理的な要素まで、AIに遭遇する場面は飛躍的に増えるのだろうと思います。

引き続き、Special reportについても読み込んでみようかなと。

田舎暮らしを好む若者について

だいぶ久しぶりの投稿になってしまいました。

 

The Economist誌3月24日号は、Asiaで「日本の若者が田舎に移住する」という事例を取り上げて、人口減少と高齢化が進む日本における若者の志向が多様化していることに注目した記事を載せています。

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田舎に移住する若者、という事例が果たしてどの程度社会の変化に影響を及ぼすものなのかについてはさすがのThe Economistも具体的な論評はありません。でも確かに直接的に地域の活性化に資する部分はあろうと思いますし、また政府がそのような動きを政策的に支援しようとするのも理解できるところです。

ただ何というか、世界的にみると、今の日本で田舎暮らしを通じてまったりとした時間を楽しむことができることの効用あるいは満足感は、意外と高いのではないかと思うのです。いや、日本でなくても世界のどこでも、健康と平和と安心・安全が担保された環境で微温的に生きられることの心地よさは、評価されるべきポイントになってきているような、そんなインスピレーションがあるのですが、だとすると日本の田舎暮らしは鉄板で世界一の住環境だったりするのかと。整備されたインフラと壊れないクルマ、誰もが使える医療・介護システムに加え、張り巡らされた流通小売りネットワークと全国津々浦々に広がるコンビニ。加えて近隣住民には穏やかな高齢者が多く、長年の貿易摩擦輸入自由化の波を乗り越えて生き残った農業は安全安心の食料を安定供給してくれる。

The Economistが洞察を働かせたのは、そういった部分についてのメリットを追求する生き方、みたいなものへの賛同意識ではなかったかと。

一帯一路とイケイケどんどんに対抗する貿易戦争が懸念され、明らかに命をすり減らすような流れが弱まることのない今日において、何か違う価値がそこにある、そんなインスピレーションが見え隠れした記事でした。

デジタル医療

ネットでは2月3日号が流れているThe Economistですが、Leadersのトップ記事は急激に実用化が進むネットを使ったデジタル医療、とでも呼ぶべきセルフケアの流れについて解説しています。

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すでに実現している部分も併せて言うと、ウェアラブル端末とスマホを使って自分の健康データをリアルタイムでモニターしながら、自分のDNA情報を参照してAIが示してくれるさまざまな疾病の可能性に注意する、という生き方で、The EconomistはそれをDoctor You(あなた自身が医者)と呼んでいますが、確かにそういう時代がもうそこまで来ているのだろうなと思うことがあります。

私自身、特にウェアラブル端末をつけるようになってからというもの、日々の消費カロリーやジムに行った時の心拍数などを気にするようになりましたし、消費カロリーと体重は若干の時差を持ちながら相関関係にあるのだということも実感しています。

あったらいいなと思うものとしては、血液データのモニタリングができる仕組みでしょうか。さすがにこれは今のところ、採血しないと難しいのかもしれませんが、毎日簡単に様々な数値が判るようになると、食べ物についての注意も変わってくるだろうなと思っています。

ビッグマックインデックス

1月20日号のThe Economitは、Finance and economicsに恒例のBig Mac Indexが載っていて、現在の通貨価値とのズレをわかりやすく示してくれています。それによると、先進国の中で通貨安になっているのは英国のポンドと日本円だそうで、ポンドは英国のEU離脱問題から、日本は異次元の量的緩和からそれぞれ安くなっていることが伺えます。ネットによると現在、単品では380円となっているビッグマックですが、円ドルレートが110円前後ということで、The Economistは3ドル43セントという評価です。仮に、380円がアメリカで売られている5.28ドルと同じ価値だとするならば、1ドルは72円くらいでないと合わないことになります。もしも1ドルが72円だったとすると、ガソリンなんかはだいぶ安くなるのではと思います。

昨年、アメリカに出張した時もホテルが高くて難儀したのですが、仮に1ドルが72円くらいになってくれるとしたら、だいぶ助かることになりますね。

とはいえしばらく量的緩和は続くでしょうから、円が市場にたくさん出ているとすれば円の価値は上がらないわけで、だとするとしばらく円安基調は続くのかなと。

よいこが増えた?

The Economist1月13日号のInternationalは、世界のティーンエージャーに共通してみられる現象として、以前の同じ世代に比べて飲酒や不純異性交遊などに代表される問題行動が減少し、友達を作らなくなったと分析してくれています。

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統計的には、飲酒経験や異性経験に至った年齢が明らかに上がっており、父親とフランクに話せるとした比率も高くなっています。喫煙やクスリ、ケンカなどの対人暴力も同様で、一言で言えば世界中で若者は「より非享楽的で、より社会のルールを守る」存在になってきているとのこと。

一つには、家族が一緒にいる時間が増えて、特に父親と接する時間が伸びていることが挙げられていますが、他にも学歴が上がっていること、欧州では飲酒を禁忌とする移民が増えていることも影響しているのではないかとの分析もあるようです。

そして何より、ネットの普及やSNSの登場が、若者をして物理的に友達と付き合わなくても済むように仕向けているのではないか、との洞察があります。異性と付き合わなくなり、結婚もしなくなるほどに。

The Economistが読み解くのは、医学の進歩で長い期間生きられるようになってきており、怠けているようにも見える若者たちも、人生においていつ何をすれば良いのかを真剣に考えるようになったのではないか、とのこと。

確かにそうかな、と思わされる場面が、日本では増えたような気がしていて、それは日本だけかと思っていたらどうやら世界的な変化みたいです。なんだか不思議。

トランプ大統領就任一周年

1月13日号のThe EconomistはLeadersのトップにトランプ大統領就任一周年についての論評記事を載せています。

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記事によると、暴露本の出版もそうだったと思いますが、この一年はいつ何をツイートされるかでハラハラしどおしだったとのことですが、とりあえず経済は好調、それでも選挙公約の多くはうまく行かず、パリ協定やTPPからの離脱など、The Economist的に言わせるとアメリカの利益とならないことに拘泥するなど、出来は中くらいではないかとのお見立てです。

官僚人事の停滞が影響している要素として、財界からの取り立てが相次いでいるそうですが、The Economistが警戒するのは、本来企業が支払うコストを社会に付け替える流れが出来ているのではないかという点です。なんだか議論が左派的ですが、The Economistをしてそういわせるだけの流れがあるということなのかなと。

ロシアゲートに関する特別検察官の捜査の行方や北朝鮮問題など、まだわからない要素はあるものの、だからといって不適格性云々でトランプ大統領を罷免するというような議論にはThe Economistなりの分別を持って「それはおかしい」との認識を示しています。二年目を迎える大統領の行く手には岐路ばかり、という状況のようですが、それが大国のリーダーの運命なのかな、とも。

とりあえず、経済が好調なのは悪い話ではないのだろうと思うのは、アメリカの外から見てるからですかね?