シンプルだからでしょうかね。
The Economist5月3日号のFinance and economicsには、当ブログが今年1月9日に注目したフランスの経済学者、トーマス・ピケッティの近著「21世紀の資本」の英語版がアマゾンでベストセラーになったことを取り上げ、その背景や主張に関して繰り広げられている議論を紹介しています。ちなみに、1月9日のブログはこちらです。
junnishida.hatenablog.com/entry/2014/01/09/082610
本の主張はとてもシンプルで、なぜ富の配分は不均衡になるのかという問いに対して、投資家が得るリターンの率をr、経済成長をgとすると、歴史的に見て圧倒的にr>gであった、というのが骨子で、その流れは21世紀も継続または拡大するだろう、というのが本の内容であるようですが、その分かりやすさが受けてか、本の売れ行きは好調なようです。
他方で経済学者やジャーナリストの間では、概念定義に関する疑義が示されたり、経済原則の一部が無視されているといった批判も活発なようですが、それもまた本の売れ行きが好調なことを裏付けているように見えます。
日本に当てはめて考えると、OECDによる経済成長予測は+1.2%とかいうレベルで、預金利率はどうかするとそれよりも低い現状、一般的な投資収益率はいったいどれくらいあるのでしょうか。10年物国債が0.6%前後の利回りしかなく、株式投資を考えるうえで参考になるROEは平均でだいたい7%くらいだそうですので、リスクを分散させるにしてもr>gという考え方はどうにか成り立ちそうですね。でもこの「どうにか成り立つ」レベルではリスク忌避型の投資を呼び込むのがせいぜい、ということでしょうから、まずはrを引っ張り上げることでgも上げたい、というのがアベノミクスの第三の矢、ということなんだろうと思います。
ピケッティ氏は、この恒常的な不等式によって世界的に拡大する格差是正のための「世界税」のようなソリューションを提案しているそうですが、この部分はThe Economistが結論づけているとおり、現実的に難しそうです。
むしろ、どんな時に格差は不安定につながるのか、どんなときにそうでないのかと言った更なる洞察が求められるとの指摘は正鵠を得ているように思います。日本やスペインのように、経済が今一つでも安全で安定した国があるかと思えば、少なからず中進国のように経済が好調でないと安定も損なわれる、そしてその原因が格差であるという事例もあるわけで。
日本語訳が出たらぜひ読んでみたいと思う本でした。